オペラ18号
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(取材2013年8月3日 Photo関大介)スタート台に立った瞬間、一気にレースモードへスキーのない人生は考えられない障害者と健常者の両方の世界が見られる 「悔しくて、自分が情けなくて、コースの脇で泣いていました。それからは、食生活には気をつけるようにして、身体も絞りました」苦労した記憶はなく、これまでに泣いたのは、この2回だけだという。そのうえ、ONとOFFの切り替えの素早さは並ではない。 「いつもONでいると、嫌になって続かなくなります。だから、夏場にスキーの動画を観たりはしません。本番のレースのときは、一度だけコースの下見ができますが、実際はほとんど覚えていません。スタート台に立つまでは、〝早く終わらないかな〟とか、〝ホテルに帰ったらスキーにどのワックスを塗ろうかな〟というようなことを考えたり、ほかの選手たちと冗談を言い合ったりしています。緊張しないようにしているのです。そして、スタート台に立ったとき、一気にレースモードに切り替えます」 . 現在、大学の職員の仕事をしながら、ウエイトトレーニングや車椅子のランニングなど、毎日2時間のトレーニングにはげんでいる。とりわけバランスボールには必ず乗るようにしている。バランスを保つだけでなく、自分からバランスを崩してみたりして、常にスキーの感覚をとらえるためである。 〝スキーはあなたに何を与えてく 「楽しさを与えてくれたというのれましたか〟という質問に、「う~ん、むずかしいですね」としばらく考えてから答えた。はありますが、勝った負けたではなく、スキーがあるから世界で戦う自分がいる、そういう自信を与えてくれています。スキーのない人生は考えられません。これまでスキーを続けてこられたのは、応援してくれる人たちがいたからです。そして、好きでやっているわけですから、感謝しなければいけないです」最後にポツリ。 「僕は、本当に恵まれていると思います。もし、僕が健常者だったら、おそらく障害者のことにあまり興味を持たなかったと思います。自分が障害者になったおかげで、両方の世界を見ることができます。そして、こんなふうに皆さんと出会うことができます。僕は本当に幸せだ、と思います」話を聞いていていると、なぜか気持ちが楽になり、心から応援したくなってしまう。9 JAPANESE ASSOCIATION OF OCCUPATIONAL THERAPISTS右は、2012‐2013シーズンの障害者アルペンスキーワールドカップ男子座位年間総合1位のメダル。左は、種目別(回転)1位のメダルトレーニングに入ると、それまでの飄々としたにこやかな表情は、アスリートのきびしい表情に一変する同、カップ。ガラス製だが、「割れたら、また取ればいいですよ。おそらく無理ですけど、ハハハ……」と、屈託がない
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