機関誌『日本作業療法士協会誌』

シンポジウム2 “革新的なテクノロジーと作業療法”

   テクノロジーの進化が作業療法士の役割を拡大させる興味深い事例が多く紹介され、たいへん刺激的でした。特にADOC(リハビリテーションにおける目標設定プロセスを支援・改善するipad用アプリ)やeスポーツを活用したアプローチでは、個別化された支援や補助具の選定・環境調整が新たな社会参加の促進につながる可能性を感じました。また腹膜透析患者を対象とした研究では、死亡率と股関節骨折や骨粗鬆症等、病理学的因子が関連していることが解明され、エビデンスに基づいた実践の重要性を再認識しました。各分野のトップランナーの先生方が集ったこのシンポジウムでは、最先端の知識や議論に触れることができ、今後の臨床現場への応用に期待が高まる本当に貴重な空間でした。

  (さがみ林間病院・依岡尚氏)

佐藤剛記念講演 
中村春基氏 “人は作業を行うことで健康になれる”

  日本の作業療法の黎明期から現在に至るまでの歴史を紐解くなかで、取り組むべき課題や方向性が明確になりました。作業療法が多岐にわたる領域で活躍し、社会的な地位を確立するまでに至った背景には、先人たちの不断の努力があったことを改めて認識し、その恩恵に感謝する機会となりました。現代では先端的な技術や新たな知見が注目されがちですが、歴史を振り返ることで、現在の作業療法の位置付けを確認し、次の一歩を考えることの重要性を実感しました。また、これからは個々が国際的な視点をもち、さらなる挑戦に取り組むべきであるという示唆に、大きな刺激を受ける貴重な講演でした。

(東京工科大学・大野勘太氏)

学生フォーラム

  さまざまな国の作業療法学生と作業療法の価値観や将来のビジョン、そのビジョンに向けてのアクションについてディスカッションしました。英語が堪能でない私に対しても、トランスレーターを使う等、同じグループのメンバーが配慮してくれたため、とても有意義な時間になりました。ディスカッションを進めるなかで、国が異なっても「人々の大切な作業を支援する」という価値観が共通していることがわかりました。シンガポールではコミュニティの作業療法も重要視されていることが印象的でした。これからは、日本だけでなく国際的な視点をもって作業療法について考えることの必要性を強く感じました。

(国際医療福祉大学学生・遠藤氏、仲松氏、櫛谷氏、渡邉氏、高田氏)

Scientific Workshop(Day1~3)

  「Healthy Kendama」ではとても楽しい時間を過ごしました。実際にけん玉を体験することで、その楽しさと活用の可能性を実感することができ、けん玉を通じて周囲の参加者との交流が生まれ、自然と会話が弾む場面が多く、とても心温まるひとときでした。高齢者にとってけん玉は親しみのある活動であり、作業療法として導入しやすい素晴らしい活動であると感じました。今後、介護現場やリハビリの場で活用する際の具体的なイメージも湧き、たいへん有意義な内容でした。このような活動が広がり、より多くの方々に楽しんでいただけることを期待しています。

(株式会社サンウェルズ・松下航氏)

一般口述発表(Day1 ~ 3)

  2014年のWFOT横浜以来、10年ぶりに国際学会へ参加しました。10年前の若かりし頃とは見る視点も、感じる視点も変化しているのは、自身が作業療法士として成長した証!? 充実した4日間になりました。コロナ禍を経て、作業療法の世界でも、一層グローバル化が進むと考えられます。日本の作業療法実践でも、異なる背景や文化をもつクライエントを理解し実践する力は、今以上に求められるでしょう。口述発表“Cultural competence in occupational therapy education: Insights from a cross-cultural pilot class among students from Indonesia, Thailand, and the Philippines” のように、日本の作業療法教育や卒後教育において、諸外国と互いの作業療法実践を学び合い、異文化適応力を養う必要性を感じました。臨床作業療法士の立場でもこのような取り組みを推進していきたいと思います。

(台東区立台東病院・楠本直紀氏)