機関誌『日本作業療法士協会誌』

2024年度重点活動項目 解説

2024年度重点活動項目 解説

Ⅰ.地域共生社会5ヵ年戦略関連

1.医療機関から企業や就労支援機関等への情報提供および連携に関する実践事例集の作成と周知 (制度対策部)

2.地域づくり支援に参画する取り組みのモデル化、自治体に関わる作業療法士の配置(市町村担当者等)の推進(地域社会振興部)
      1) 士会の状況に応じた柔軟な方法により、50%以上の市町村に担当者を配置し、市町村担当者-都道府県士会協会間連携の組織化を推進
   2) 士会、事業所、会員個人が主導的に取り組む前駆的で作業療法の専門性を活かした地域づくり活動の支援、有効性の検証、モデル化して情報発信、実践を増やす事業の開始

3.障害児・者の暮らしを豊かにする ICT 機器等の活用支援と人材育成 (生活環境支援推進室)

4.小・中学生を含む次世代に向けた作業療法の広報啓発事業の展開および広報媒体の拡充 (制作広報室)

【解説】 

 1:医療機関から地域社会への移行に際しての支援は、領域にかかわらず作業療法士にとって重要な課題です。就労や地域移行に関心があっても実際にはどのような支援ができるかわからない回復期の作業療法士も多く、医療機関の作業療法士にとって地域を知り、つなぐテーマはメッセージとして重要です。2022~2023年度には「医療機関から企業や就労支援機関等への情報提供および連携に関する調査」や事例集積が実施されています。これを踏まえて、今年度は「医療機関での社会参加支援(就労支援を含む)についての調査」「保健福祉課と協働し、医療機関と就労支援機関・事業所との連携に関する意見交換会」を行います。さらに、2024年度の取り組みをもって、学術部にマニュアル作成、教育部に研修開催を提案します。

 2の1):地域共生社会に作業療法士が寄与できることを国民に認識していただくために、配置事業は重要事項になります。そのため、市町村に作業療法士を配置する方法を示した「カタログ」の周知と、都道府県作業療法士会による全市町村への作業療法士配置状況を示す「モニタリング表」を半年ごとに更新して可視化し、配置率向上を目指します。そして、配置課題の集約と解決策の検討も行います。引き続き、市町村担当者の定義と役割を明文化し、地域事業支援会議や全国を6つに分けたブロック機能を通じて、市町村担当者-都道府県士会-協会間連携の組織化を推進します。 

 2の2):国民に対する医療、保健、福祉に貢献する作業療法実践のシステムづくりや地域支援や生活支援に関する実践的な取り組み等、先駆的・独創的な事業に助成を行い、その推進を図るとともに全国的な普及のモデルとします。また、作業療法の領域の拡大、制度化するための基盤構築も検討していきます。士会だけでなく、事業所、会員個人も対象とすることで、幅広い立場や視点からの実践例を募ります。2024~2026年度の3年間に2回(1期2年)募集する計画です。 

 3:障害児・者の暮らしを豊かにするICT機器等の活用支援と人材育成を推進します。具体的には、自治体から給付されたICT機器等の適切な活用に資する作業療法士によるアドバイス支援の実施や、障害児・者の困りごとに合わせてICT機器などのデジタル機器を適切にコーディネートし、利活用をサポートできる人材育成研修を行います。 

 4:「作業療法士」という専門職の存在が、社会、特に次世代を担う若い世代に十分知られていない現状があり、これまでも定時社員総会等においてもしばしば議論されてきました。若い世代への普及啓発自体は従来から展開されてきましたが、今年度は小中学生をも含めた幅広い年齢層を対象とし、課題の解決に向けて取り組みます。具体的には、作業療法の専門とする領域(身体障害・精神障害・発達障害・老年期)ごとに仕事の特徴とやりがいを明確にし、「作業療法士になって良かった」と感じることを伝えるための広報コンテンツと媒体の開発を行います。また、オーティくん等を活用したコンテンツの拡充を図ります。


Ⅱ.組織力強化5ヵ年戦略関連

1. 新卒者・未入会者・退会者の入会促進と現会員の維持を図るため、会員ニーズを満たすサービスおよび多様な会費納入方法の検討等、部署横断的・継続的に取り組む各種事業の開始(組織率対策委員会・担当部・室)

2. 協会と都道府県作業療法士会、学校養成施設、会員所属施設が一体となって課題に取り組む体制構築を目的とした、モデル士会・モデル事業の検討・実施 (組織率対策委員会)

3.「協会員=士会員」実現のための方策と工程表について全士会と合意し、新士会システムに必要となる具体的な要件を整理
(「協会員=士会員」実現のための検討委員会)

【解説】 

 1、2:特設委員会の組織率対策委員会では昨年度5月に個人会員向け、施設代表者向け、都道府県作業療法士会向けの3種の「組織率に関するアンケート調査」を実施しました。これらのアンケート調査の結果を根拠に、今年度は理事会への答申をまとめ、入会促進と退会抑制の施策となる各種事業を開始します。これらの事業は組織率対策委員会を中核として、部署横断的に実施されます。また、組織力の強化には職能(協会=士会)・学校養成施設・職域が一体となって課題に取り組む体制が不可欠です。学校養成施設においては、卒業生が入会する仕組みの構築を目指します。 

 3:「協会員=士会員」実現のための検討委員会では、昨年末「協会員=士会員」実現のための方策と工程表の修正案を取りまとめ、理事会の承認を得たうえで全都道府県作業療法士会に提示しました。これに対する各士会からの回答を踏まえ、2024年度はまず方策と工程表の最終版を確定させ、これについての合意書を全士会との間で取り交わすこととしています。そして、この方策にのっとって、「協会員=士会員」を実現するための新システムを開発し2027年度から稼働させるために、2024年度は士会(事務局)へのヒアリングを重ねながらシステムの要件を確認し整理する作業を行う予定です。


III.特別重点項目関連

1.第8回アジア太平洋作業療法学会(APOTC2024)への国内外の作業療法士の参加促進と開催の成功(APOTC 実行委員会)

2.認知症者に対する作業療法の効果的な展開方法の普及に関すること

   1)訪問による認知症のリハビリテーションの周知と普及 (制度対策部)

     2)認知症者とその家族や支援者に対する作業療法の効果的な広報の推進 (制作広報室)

【解説】 

 1:2021年4月にAPOTC2024の誘致に成功してから3年、ついに今年の11月、札幌コンベンションセンターを会場に開催されます。2023年度に実施した演題募集には約1,200演題、そして学生演題にも100演題を超える登録がありました。国内外から多くの作業療法士に参加いただけるよう、アジア太平洋作業療法地域グループ加盟協会、都道府県作業療法士会、学校養成施設にご協力いただきながら広報・啓発活動を継続していきます。参加した作業療法士が世界に向けて視野を広げ、海外へ挑戦の一歩を踏み出していただけることを期待して、学会を安全に開催し、成功させることに引き続き注力いたします。 

 2の1):認知症施策推進大綱では「認知症の人に対するリハビリテーションについては、実際に生活する場面を念頭に置きつつ、各人が有する認知機能等の能力を見極め、最大限に活かしながら日常の生活を継続できるようすることが重要」(以下、認知症のリハビリテーション)とされています。令和6年度介護報酬改定では、認知症のリハビリテーションを推進する観点から、認知症の方に対して、認知機能や生活環境等を踏まえ、応用的動作能力や社会適応能力を最大限に活かしながら、当該利用者の生活機能を改善するためのリハビリテーション実施を評価するため、訪問リハビリテーションに「認知症短期集中リハビリテーション実施加算」が新設されました。社会保障審議会介護給付費分科会では、本会が実施した、認知症の人に対する訪問による生活行為に焦点化した作業療法が認知症の人の生活機能を維持・改善し、介護家族の負担軽減を図る上でも効果的であるとしたデータを基に議論していただきました。今年度は、有効性の高い認知症のリハビリテーションの手法について明らかにするとともに、関係職種への普及啓発を図り、大綱にある「認知症の人ができる限り地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現」に作業療法士が寄与することを目的とします。 

 2の2):「認知症支援=作業療法」であることを提示し、これを作業療法士のみならず他職種にも周知することで、理解を促進して制度に結びつける必要があります。そのために、認知症支援は作業療法の特徴を顕著に活かすことのできる領域であることを伝える広報コンテンツを整備します。認知症のある方に対する初期支援、訪問支援、活動と参加支援、それぞれにおける作業療法の有用性を明らかにして、従来の広報媒体を通じた普及啓発を行います。特に、②訪問支援における作業療法の有用性については、令和4年度・5年度老健事業の成果についてプレス発表等を通じてアピールします。