日本作業療法士協会にようこそ
この記事は、機関誌146号(2024年5月15日発行)に掲載しているTOPICSのWeb版です。
新年度が始まり、1ヵ月半が経ちました。新たに会員になられる方も多いこの季節ということで、今回のトピックスでは新入会員の皆さんに向けて「協会とあなたとのかかわり」について解説いたします。また、新入会員の方のみならず、既存の会員の皆さんにとっては、周りにいらっしゃる未入会の方、学生等に向けて本会について説明する際に本記事を活用いただければ幸いです。本記事に加えて、6月には協会ホームページの「入会案内」ページにて本会への入会を促進する映像を配信する予定です。こちらも併せてご活用ください。
役に立つ作業療法士になるためには
作業療法士は国家資格です。国家資格は、国がその仕事の専門性に必要性と有用性を認め、法律で定めた資格です。ですから、作業療法士の資格をもっているということは、あなた個人の人生にとって利益があるだけではなく、公の利益となることが期待されています。作業療法士となったからには、いつも自分の存在の公益性を自覚し、それに誇りと責任をもってほしいと思います。
では、作業療法士が社会の役に立つためには、どんなことが必要でしょうか。医療技術は日々進歩していますし、保健・医療・福祉の法律や制度も大きく変化し続けています。作業療法の分野でも新たな知見や研究成果が次々と発表されています。対象者も、10年前の高齢者と10年後の高齢者では世代も異なり、興味関心もメンタリティも大きく異なっているかもしれません。子どもを取り巻く環境も、自分が子どもだった時代とはまるで違ってきています。
そんな、めまぐるしく変化する現代社会のなかで、作業療法士が本当に役立つ専門家であるためには、最新の学術的な研究やその成果にいつもアンテナを張りめぐらせておくことが必要です。また、今の法制度で求められている知識と技能をどんどん身につけて、 常に最高水準の専門性を発揮できるような準備をしておくことも求められるでしょう。
さらに作業療法士がその専門性を発揮できるためには、適材適所、本当に必要とされている場に、必要な数だけいなければ意味がありません。そのためには、法制度や報酬の点数を変えて作業療法を導入しやすい環境づくりをするほか、潜在的に作業療法士を必要としている利用者や他職種に作業療法士の存在や有用性をもっと知ってもらう努力もしなければなりません。
日本作業療法士協会の存在意義
これらのことは個人レベルでできることもありますが、すぐに限界に直面してしまったり、その人だけの例外的な対応で終わったりしてしまいがちで、公に意味のある確かな結果をもたらすことにはなかなかつながりません。ここに日本作業療法士協会の存在意義があります。
1966年に設立された本会は作業療法士の全国組織として各都道府県の作業療法士会と協力しながら、作業療法の学術研究の発展、作業療法士の生涯教育、作業療法士のための制度対策、作業療法の普及と振興、作業療法士の国際交流、作業療法士による災害対策等のためにさまざまな活動を行っています。これらの活動は、まず作業療法士全体の質と有用性を高め、その公益性を促進するために行われています。そうすることが国民の健康と福祉の向上に役立つと信じているからです。そして、こうした本会の活動が、結果的には(言わば副産物のようにして)、あなたの個人的な職業生活にとっても大きな利益となっているはずなのです。
次項からは、個々の会員と本会とのかかわりが濃い、学術、教育について本会が行っていることをご紹介します。
協会結成当時の写真(入会促進映像より)
作業療法の可能性を切り拓く
学術の発展に関する事業
本会は職能団体でありつつ、学術的な活動も行う団体です。学会(学術集会)の開催、査読のある専門誌の発行、研究活動の奨励と促進、専門領域の枠組みの提示、定義や専門用語の整備・改定、介入効果を示す事例の組織的な集積、学術資料の体系的な整備等は、その専門職の学問的基盤をつくり、療法の効果や有用性を科学的に根拠づける、専門性の主張にとって本質的な営みであり、本会においても設立当初から大切にされてきた中心的な事業です。
具体的には、作業療法の基本的な視点・目標・内容・過程等の枠組みの提示(『作業療法ガイドライン』『作業療法ガイドライン実践指針』等の策定・改訂)や、学術資料の作成と収集(作業療法マニュアルシリーズの刊行、学術データベースの構築等)があります。
また、会員の学術活動に対しては、研究発表の場(日本作業療法学会の開催)や誌面(学術誌『作業療法』『Asian Journal of Occupational Therapy』の発行)を提供し、研究助成金を交付して支援・促進し(課題研究助成制度や海外研修助成制度の運用)、また作業療法の有用性と効果を客観的に明示するための根拠の集積等を主たる事業内容としています。
プロとしてのスキルアップを図る
技能の向上に関する事業
作業療法士にとって専門教育が重要であることは言うまでもありません。時代や地域を問わず、作業療法士であるからには身につけておかなければならない普遍的な専門技能がある一方で、同じ技能でも時代や社会の要請によって重点の置き方やそれを実現する場が変わってきたり、新しい技術や道具の導入によって習得すべき事柄が増えたり、特定の領域における特殊技能があったりします。学ばなければならないことは増えこそすれ、決して減ることはありません。
学校養成施設における卒前教育が基礎になることは当然ですが、それはあくまでスタートライン。現役の作業療法士として働くためには、基本的技能を常に深化(進化)させ、時代に即応した知識と技能を習得し続けていくことは必須です。作業療法を必要とする方々に適切な作業療法を提供するために、作業療法士としてある限り、学び続けることが求められるのです。
そんな社会的要請に応えながら、会員の皆さんがプロとして継続的に技術を高めていけるよう、本会には生涯教育制度があります。この枠組みのなかで、都道府県作業療法士会の協力による基礎研修、認定作業療法士制度、専門作業療法士制度の設計・定期的な見直し・さらなる拡充を図っています。生涯学修制度は、取得したい資格(認定作業療法士研修・専門作業療法士研修)や、本会が重点的に推し進めている活動項目(作業療法重点課題研修)に応じて、さまざまな研修メニューを用意しています。また、より多くの会員が学ぶことができるよう、オンデマンド配信等を活用したオンライン化も推進しています。
本会の認定資格である「認定作業療法士」や「専門作業療法士」を取得できれば、継続的な自己研鑽に取り組んでいることをアピールでき、待遇アップ等も期待できます。
昨年度開催された第57回日本作業療法学会(沖縄)の開会式の模様
学会のポスター発表の模様(第56回学会)。発表者とより密接に話ができるので、「会員=仲間」を実感できます
研修会のグループワークの模様
全国の会員があなたの仲間です
以上、ご紹介したように、学術や教育を通じて自身の作業療法士としてのスキルアップを目指せることは、本会の会員であることの大きなメリットです。スキルアップのために本会に入会したという方も少なくないでしょう。あるいは、本号にご案内を同封している「作業療法士総合補償保険制度」をはじめとした各種団体保険等、福利厚生にメリットを感じているという方も多いでしょう。さらに、医療・介護・障害福祉の報酬改定に際して作業療法士の要望を国に伝える渉外活動(2023年度の渉外活動の詳細は本誌第145号〈2024年4月15日発行〉p.14-15をご参照ください)等、作業療法士の働く環境を改善したり、作業療法士が活躍できる領域を広げたりしたいという思いをもって協会活動に参画する方も数多くいらっしゃいます。
こうした具体的なメリットだけでなく、本会の会員であることの本質的な意義があります。それは、地域や世代を超えた会員があなたの仲間だということです。あなたは、学会や研修会、協会活動、災害対策等、さまざまな機会を通じてそのことを実感できます。あなたの周りには、「協会に入らなくても自分一人の力でやっていける」と考える人もいるかもしれません。たしかに、一度作業療法士の資格を取ってしまえば、作業療法士として就職でき、医療施設であれば作業療法の診療報酬等を請求することができるようになります。しかし、そもそも今のようなカリキュラムで作業療法士になるための養成教育を受けられたこと、作業療法士として就職口があったということ、今の診療報酬制度のなかで作業療法の点数を請求できたこと等は、全国の作業療法士たちが一致団結してきた結果です。日本作業療法士協会という職能団体が、そしてそれを構成している会員一人ひとりが、過去60年間、コツコツと実践を積み重ね、知見を取りまとめ、日夜集まっては未来を語り、知恵を絞り、国や関係団体との渉外活動に臨んで、作業療法士の有用性を示し続けてきた成果なのです。あなたも、あなたと同じようにこの職業を選ぶ将来の作業療法士の仲間として、彼らにより良い未来を手渡していただきたいと思います。
職能団体には、強制加入制がとられている団体と、そうでない団体があります。弁護士や税理士等は職能団体への加入が法律で義務づけられていますが、作業療法士の場合は職能団体への加入は任意です。これを組織率(有資格者全体のうちその職能団体に加入している人の比率)という観点からみると、前者は常に100%ですが、後者は有資格者の意識のもちようによって変動します。専門職として一致団結して事に当たり、皆で社会の荒波を乗り越えていかなければならないという意識が高まると、職能団体に加入する人が増え、組織率は上がりますが、職能団体などがなくても自分は自分一人の力でやっていけると思う人が増えれば、組織率は下がることになります。
本会の現在の組織率は56.8%(2022年度現在)です。これを多いと見るか少ないと見るかは、見る人の立場や視点によって意見の分かれるところでしょうが、今もまたこれからも、日本の作業療法士が放っておいても安泰であるなどとは決して言えない状況にあることだけは確かです。看護師等に比べると、本会はまだまだ「小さな群れ」にすぎません。できるだけ多くの作業療法士に結束していただき、協会活動を盛り立てていっていただければと思っています。
(事務局)