基本理念策定の経緯
基本理念策定の経緯
これまで本会では、定款で法人の目的を、作業療法の定義で「作業療法とはどのようなものか」を、倫理綱領において「作業療法士はどうあるべきか」を示してきましたが、協会組織としてのあり方や組織の方向性を表す理念が示されたことはありませんでした。では、そもそも本会はなぜこのタイミングで基本理念を策定したのでしょうか。それは、2023年度の組織改編に端を発します。
組織改編に伴って、事務局の職員給与規程の見直し、人事管理制度の創設が必要となりました。当初、この二つの課題に対して事務局内での検討が進められましたが、事務局だけでは解決できず、法人組織全体のあり方に立ち返り、本会の理念に遡ってこれを確認し、そこから演繹的・体系的に人材の評価基準や給与体系を構築し直す必要性があることが自覚されました。
そこで理事会は本件に特化した検討チームを設置し、本会の基本理念、その財務体質のあり方にはじまり、職務権限・職能要件、人事管理制度、職員給与規程等の課題について集中的に検討を行うことになりました(2023年度第1回定例理事会〈4月15日開催〉承認)。検討チーム内に基本理念ワーキンググループが設置され、2023年9月から2024年4月まで計22回に上る会議を開催し、集中的に検討がなされました。
2023年度第5回定例理事会(10月21日開催)では基本理念の策定方針について承認され、続く第6回定例理事会(12月16日開催)では、検討チーム内の基本理念ワーキンググループより基本理念素案が提示されました。これをもとに、2023年度第4回常務理事会(2024年1月30日開催)で検討を加え、理事、社員(回答数125件、回答率48.6%)、職員からの意見も加味して、第2回臨時理事会(3月23日開催)にて基本理念案が提示され、さらなる意見募集も行われました。今年度は歴代協会長へのヒアリング、会員パブリックコメント(回答数793件、意見数372件)にて意見募集、20~30代会員(男性5名、女性9名)へのヒアリングと幅広い方々からご意見をうかがいました。
以上のように、本会としては初めての試みとなる基本理念策定に際して、理事、社員、職員、歴代会長、全世代・領域がかかわることとなりました。それぞれの文章、表現を、何度も削除、変更する検討が行われ、最終案にまとめられました。2024年度定時社員総会では、社員からの特段の質問や意見はなく、賛成多数をもって可決・承認に至りました(決議における票数の詳細はp.4をご参照ください)。
基本理念策定への想い
ワーキンググループのメンバーでは、基本理念策定に際して協会資料を精読し、作業療法への考えや想いを語り、「日本作業療法士協会はどうあるべきか」「これからどこへ向かうべきか」等を何度も意見を交わしました。そして、本会のあるべき姿、進むべき道を会員や職員が共有して共感できる基本理念、活動方針、行動規範をつくり上げたいという強い意志をもって取り組みました。初めはメンバーの立場や経験等によって意見もさまざまで、意見を交わすことで作業療法の本質や本会の役割や価値を共感することができました。そして、理事会での議論、社員アンケート、職員アンケート、歴代協会長ヒアリング、20~30代会員ヒアリング、そして会員パブリックコメント募集を実施することで、かかわるすべての皆様の本会や作業療法への想いや考えを知る貴重な機会になりました。
基本理念は、「Vision:こんな社会を実現したい」「Value:作業療法士協会の信念」「Mission:協会の使命」で構成しました(Vision、Value、Missionに対する共感度について、会員パブリックコメントでの調査結果は図1~図4。ただし、会員に提示された各文言は最終案への修正前のものとなっています)。Visionに掲げた「作業で暮らしに彩りを」は、人がその人らしく生きるために作業(Occupation)が大切なものであるというメッセージを込めています。この基本理念は、作業療法の対象者のみではなく、私たち会員や職員のためにもあります。私たちの暮らしも、自分らしく、豊かさとたおやかさのある生活や人生が送られるような協会であることを目指しています。
図1 Visionに対する会員の共感度
図2 Valueに対する会員の共感度
図3 Mission前半部に対する会員の共感度
図4 Mission後半部に対する会員の共感度
基本理念の今後
これからは、基本理念や活動方針や行動規範に掲げたことを実行して、協会事業に取り組みます。そして、会員の皆さんがそれぞれの立場で協会事業に参画していただきますようお願いいたします。学会への参加や発表、研修会受講もその一部です。会員一人ひとりが、基本理念に共感して、自身の作業療法を行っていく、そんな皆さんを協会の職員や役員らが支えて、ともに成長できる協会でありたいと思います。
そして、この基本理念は時代の流れや社会情勢の変化、会員ニーズの変化等により、見直されることも大切です。その時は、会員や職員の皆さんで再び基本理念、活動方針、行動規範をつくり上げていきたいと思います。まずは、この基本理念をみんなで共有し、育んでいきましょう。
(副会長 大庭 潤平)