機関誌『日本作業療法士協会誌』

財務管理指針の説明

 財務管理指針の説明

財務管理指針(本文)に解説をつけた表をご参照ください(表参照)。以下、項目に沿って財務管理指針の内容を説明します。
Ⅰ. 指針の目的
 本会の資金の主たる原資は言うまでもなく、会員の会費です。会費がどうすれば適切に運用されるのか、その考え方を示すのが指針の目的です。資金は協会事業と組織運営のために使われますが、どのように使われるかは、「定款」と社員総会で承認された「基本理念」が大前提の下で一定の仕組みをもってしかるべきです。
では、財務管理指針の中身を解説していきます。指針は大項目、中項目、小項目に分けてまとめられています。
Ⅱ. 財務管理指針
1. 基本
 大項目1は「基本」です。ここでは協会の財務の基本的な考え方、あり方を示しています。定款に記された法人の目的「国民の健康と福祉の向上に資すること」を実現するために、本会は公益的事業を実施し、そのために本会の資金すなわち、会員が納めた会費が使われるということが中項目1)で明記されています。
 中項目2)では、本会が非営利法人の一般社団法人であり、法人法に則り、会員に利益を分配することを目的としない、つまり「分配できない」ことが示されています。その一方で、会員に対しては研修会等のさまざまな事業があり、一見して会員が直接的な受益者となっているようにみえますが、それらはあくまでも国家資格者である会員作業療法士が「国民の健康と福祉の向上に資する」という組織の目的のために実行している、社会的使命を帯びた、間接的な公益的事業であることを基本としています。最近特に会員であるメリットに関してさまざまな考えが聞かれますが、この基本で示された指針は会員であることの意味、あり方として非常に重要なところなので、付帯する小項目①で示しているように、この旨を会員の皆様にご理解いただきたくお願いいたします。
 中項目3)では、財務管理が、定款、基本理念に沿いながら組織運営、事業管理、人事管理等、組織全体の関連性を踏まえて実行していくものと示されています。そのために、作業療法5ヵ年戦略等の中長期的事業計画や、単年度ごとの重点活動項目等を決めていく際には、始まりの議論から財務の視点をもって検討することが重要となります。この点において財政問題に特化した戦略会議を適時開催して、財務に関する外部専門家の知見を得る仕組みの整備(以下、戦略会議)も併せて図っていきます。
2.財政シミュレーション
 ここで言う財政シミュレーションとは、それまでの収支状況、会員の減少(資金の減少)等の内部要因、物価上昇等の外部要因、それぞれに関する必要な情報を収集し、突合させ、分析を行い、本会の活動方針に沿った安定的な財務管理を目指すための財政予測を立てることです。やはりここでも戦略会議を活かしていくことになります。
さらに踏み込んだ内容ですが、中項目2)-小項目④では、支出を事業費、人件費、管理費に分けたうえで、資金の状況からそれぞれの総額とそれらを合算した全総額の上限額を決め、予算計画時の目安とすることを挙げています。安定的な財務管理のために、予算の大枠を決めて事業費、人件費、管理費の配分を決めていきます。なお、毎年全く同じ事業を実施することはありませんし、作業療法5ヵ年戦略事業であれば、単年から数年のスパンで終了する事業もあります。したがって、年度予算額は毎年変動します。前年度予算ありきで考えるのではなく、年度ごとに事業費、人件費、管理費の適切な上限額を決めていきます。
3.適正な事業計画と事業評価
 財政シミュレーションを参考にして取り組む事業計画には予算計画も連動します。策定プロセスを整備して適正化を図り、見える化させることにまずは取り組む必要があります。事業計画は、研修等の会員に直接的に関連する事業に限らず、組織運営や適切な人事管理、財務管理に必要な検討や実行も含まれます。組織的な重点課題も含めてどの事業にどのくらい配分するのかを、重要度、優先度の高い事業区分(あるいは事業)から事業実施の可否、予算規模を決める等、「選択と集中」の考えのもとで、予算配分していくことになります。
事業の進捗と結果から事業の終了や継続といった判断を下すこともたいへん重要です。事業評価は、年度末に実施部署が自己評価し、理事会に報告します。これを受けて理事会は、戦略会議に諮って、評価を確定します。
4.支出の適正化
 支出が適正かどうかを計るために、事業費、人件費、管理費それぞれの詳細にわたって計画から実行、評価、それぞれの過程で費用対効果を精査していきます。各部署がセルフチェックできるような仕組みの整備も含め、戦略会議で検討し、関連する専門部署と実行していきます。
人件費と管理費支出の適正化ポイントは、2025年度から導入予定の人事管理制度です。この制度によって職務権限・職能要件を明確にし、人事評価制度やキャリアパスの仕組みを整備・定着させることで、人材育成、優秀な人材の確保等が図られ、その結果として、人件費や管理費が適正化されることになります。また、これら支出の適正化にはICT等の活用は欠かせません。
5.収益の確保
 協会事業を実施するにあたって必要な資金はどれだけなのか、内部留保金がいくら必要なのか、適正な目安をもっていなければならず、これも戦略会議での検討課題となります。組織率低下は現在、協会の重要課題となっていますが、会員が減少すればそれに乗じて資金もまた減少し、事業等遂行に少なからず影響を及ぼします。組織運営上、会費収入の確保を最重要課題と認識し、それ故に組織率対策委員会や業務を実行する多部署間で連携をとって対処すべきであることを述べています。もし事業遂行に資金が不足するのなら、会費以外の収益事業の検討も必要になってくるでしょう。
6.業務体制
 上記財務管理指針項目大項目1~5に従い、具体的に企画し、実行実現させていくための体制を整備し、担当者等を置くことを掲げています。今後、本指針に則って具体的な財務管理を実施するために、また指針で示されたことを滞りなく進捗させるため、実行するための組織化を進めていきます。
最後に付記として、本指針の運用を今年度から開始し、本指針に基づいた予算計画策定に関しては2025年度分から行っていきます。

会員一人ひとりにとっての財務管理指針

 財務管理指針は、一人ひとりの会員の皆様にとっては、協会組織への信頼につながる重要なものと認識しています。同時に協会会員としてのあり方や協会活動への考えを深めていただくためものでもあります。
今後、この指針を基点に会員の皆様、代議員の皆様、都道府県作業療法士会から関心やご意見をいただきながら、現状の仕組みがより最適化され、資金が今まで以上に有効に使われていくことを目指していきたいと思います。

(常務理事 谷川 真澄)