大規模災害時支援活動基本指針の改定
この記事は、『日本作業療法士協会誌』150号(2024年9月15日発行)に掲載しているTOPICSのWeb版です。
大規模災害時支援活動基本指針改定の経緯
今年1月、令和6年能登半島地震が発災しました。本会は既存の方針等に基づいて災害対策本部を設置し、石川県作業療法士会の要望をもとに支援策を企画・実施してきました。
その後も、4月には豊後水道を震源とする最大震度6弱の地震、7月には山形県を中心とした大雨被害等、各地で自然災害が発生しました。さらに、8月には宮崎県日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発災し、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が初めて発表されたのは、記憶に新しいことと思います。本誌がお手元に届く9月はおそらく季節的にも台風による風水害への警戒だけではなく、依然として南海トラフ地震をはじめとした大規模な地震、そのほかの自然災害も意識しておく必要があります。
令和6年能登半島地震の発災から現在に至る経緯を踏まえて、災害対策本部の連絡調整室と災害対策室は災害時の初動からの対応だけではなく、平時からの備えの必要性を改めて認識するに至りました。現状の大規模災害時支援活動基本指針(以下、基本指針)は2011年3月の東日本大震災を教訓に策定したものであり、多岐にわたる災害への対応については平時からの備えとともに発災後の初動からの行動の見直しが必要であることが明らかとなりました。このような問題意識から、2024年度第2回定例理事会(2024年6月15日)に基本指針および関連する規程、内規の改定を上程し、承認されました。
しかし、自然災害の発災は予測困難です。もし発災した場合、本会は速やかに被災した会員と士会への支援を行う責務があります。このため、改定作業には今後に予測できる自然災害について本会が対応すべき行動を検討することはもちろんですが、長時間をかけての検討はいつ発災するのか予測ができない自然災害に対応することができないことになります。そこで、当面起こりうる喫緊の課題に対応できる改定について、現災害対策本部の構成員を中心に当面の課題に対応できるよう改定案を検討しました。この改定案を7月31日締め切りで災害対策本部構成員全員に検討内容を提示し、意見集約のうえ加筆修正を行いました。改定案は、2024年度第3回定例理事会(2024年8月17日開催)に上程し、承認されました。今回は、この改定内容について報告します。なお基本指針の全面改定と合わせて、関連する規程や内規等、また必要となる行動指針やマニュアルの整備等は、2025年度重点活動項目の1項目として位置付けることが同第3回定例理事会で決議されたことをご報告します。
今回の改定のポイント
前述したように、今回の改定は当面の課題に対応するためのもので、部分的な改定としましたので、基本指針全文の掲載はせずポイントとなる箇所の紹介に留めます。来年度、新たな基本指針が完成しましたら改めて本誌等で会員の皆様にご報告、説明いたします。
(1)発災時の組織体制
これまでの基本指針は、災害発生時に災害対策本部・災害対策室の設置と役割をⅰ~ⅴの5項目で述べるに留まっていましたが、能登半島地震への対応の反省を踏まえて「災害発生情報を検知した時」と「災害対策本部設置時」と時期を区分して、災害対策本部・災害対策室の役割を詳細に定めました(表1)。
表1 Ⅲ.本会の対応 1.国内の災害への支援 1)組織体制
改定前 | 改定後 |
(2)災害発生時 ⅰ 会長は、災害が発生した場合速やかに災害対策本部を設置する。 ⅱ 災害対策本部は、本会としての対応方針や支援策を審議し決定する。 ⅲ 災害対策室は、災害対策本部の指示に基づき、災害対策室長の指揮下、被災した都道府県作業療法士会(以下「当該士会」と略す)と密接に連携し、本会が行う災害支援活動を企画立案し、災害対策本部に上程する。 ⅳ 災害対策室は、災害対策本部にて決定された災害支援活動の工程管理を行い、その最終的な結果を災害対策本部に報告する。 ⅴ 災害対策本部は、災害支援活動の実施にあたって事務局に連絡調整室を設置し、情報収集及び活動の事務処理を行わせる。 |
(2)災害発生情報を検知した時 ⅰ 災害対策課は検知した際に被災の規模を「災害発災情報検知時の手順(仮称)」に沿って確認する。 ⅱ 災害対策課は被災の規模に応じて会長に災害対策本部の設置を上申することができる。 (3)災害対策本部設置時 ⅰ 会長は、大規模災害が発生した場合速やかに災害対策本部を設置し、災害対策本部長として本部員を招集する。 ⅱ 災害対策本部長は、災害対策室と連絡調整室を設置する。 ⅲ 災害対策室は、災害対策本部の指示に基づき、災害対策室長の指揮下、被 災した都道府県作業療法士会(以下「当該士会」と略す)と密接に連携し、 本会が行う災害支援活動を企画立案し、災害対策本部に上程する。 ⅳ 災害対策室は、災害対策本部にて決定された災害支援活動の工程管理を行い、その進捗と最終的な結果を災害対策本部に報告する。 ⅴ 連絡調整室は、災害支援活動の実施にあたって情報収集及び活動の事務処理を行い、災害対策本部に報告する。 |
さらに、「一般社団法人日本作業療法士協会災害対策本部規程」第5条では、災害対策本部の下に置かれる災害対策室と連絡調整室(事務局内に設置)の任務を改正しました。災害対策室は「大規模災害時支援活動基本指針に明示している災害支援活動を企画立案し、災害対策本部に上程、工程を管理し、定期的に報告 ・新規支援企画を提案する。」とし、連絡調整室は「大規模災害時支援活動基本指針に明示している連絡・連携に関連する業務を行う。」としました。
(2)協会・士会の連絡体制・連携方法
これまでの指針でも、災害発生時に本会と被災都道府県士会間の連絡および連携のあり方を整備することを定めていましたが、これを現状の協会・士会の組織体制に合ったかたちに改めました(表2)。
表2 Ⅲ.本会の対応 1.国内の災害への支援 2)時期別の対応指針 (1)平時の対応
改定前 | 改定後 |
③災害発生時の本会と士会間の連絡および連携のあり方の整備と確立 ⅰ 平時の連絡体制と連携方法に関して、災害対策室、事務局、士会組織担当理事、都道府県作業療法士会連絡協議会を中心に検討し、確立する。 ⅱ 災害発生時の連絡体制と連携方法を、災害対策室、連絡調整室(平時の事務局)、士会組織担当理事、都道府県作業療法士会連絡協議会を中心に検討し、確立する。 ④会員情報を含む本会の各種システム及びデータのバックアップ体制の整備 本会の事業継続計画(Business continuity planning:BCP)の一環として、会員個人情報を含む協会の各種システム及びデータは、分散した複数サーバーや定期的なバックアップにより保管・保護し、事業継続が可能な体制を整えておく。 |
③災害発生時の本会と士会間の連絡および連携のあり方の整備し、確認する。 ⅰ 平時の連絡体制と連携方法 (あり方)に関して、災害対策課と各士会の災害対策担当間で整備する。 ⅱ 災害発生時の連絡体制と連携方法を、災害対策課と各士会の災害担当間で確立する。 ④会員情報を含む本会の各種システム及びデータのバックアップ体制の整備 総務部は、本会の各種システム及びデータを保管 ・保護する体制を整備する。 |
(3)災害対策本部立ち上げ後の対応
これまでの基本指針では「災害発生時の対応」として本会の対応を定めていましたが、今回の改定で「災害対策本部立ち上げ後の対応」として第1次対応(目安:発生直後~1週間以内)から災害支援活動の終了までの動きをまとめています。各時期の対応として、改定前でも具体的な対応を明記していましたが、災害の種類、被災地の状況に応じて支援企画の内容が異なることに鑑み、具体的な対応についての記述は削除して柔軟に対応できるようにしました。また、災害支援活動の終了時のフローをより詳しく定めました(表3)。
表3 Ⅲ.本会の対応 1.国内の災害への支援 2)時期別の対応指針 (2)災害対策本部立ち上げ後の対応
改定前 | 改定後 |
②第2次対応(目安:発生後1週間~1ヶ月程度) ⅲ 災害対策本部は、決定された支援計画を公表し、必要に応じた広報を行う。 ⅳ 災害対策本部は、支援計画に基づき急性期支援活動を開始する。 ・避難所等への災害支援ボランティアの派遣 ・災害支援活動を実施する当該士会への資金や緊急に必要な物資の提供等。 ③第3次対応(目安:発生後1ヶ月~6ヶ月程度) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、急性期から回復期支援活動を継続的に展開する。 ・避難所や仮設住宅等への災害支援ボランティアの派遣 ・災害支援活動を実施する当該士会への資金や物資の提供等 ⅱ 災害対策本部は、支援活動の定期的な報告・広報を行う。 ④第4次対応(目安:発生後6ヶ月~1年程度) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、回復期から生活期支援活動を継続的に展開する。 ・仮設住宅等への災害支援ボランティアの派遣 ・災害支援活動を実施する当該士会への資金や物資等の提供等 ⅱ 災害対策本部は、支援活動の定期的な報告及び必要に応じた広報を行う。 ⅲ 災害対策本部は、状況に応じて、暫定的な総括を行う。 ⅳ 災害対策本部は、必要に応じて国や地方自治体、他団体に対する要望活動を行う。 ⑤第5次対応(目安:必要に応じて、その後も継続) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、復興に向けた支援活動を継続的に展開する。 ・仮設住宅や復興住宅等への災害支援ボランティアの派遣 ・災害支援活動を実施する当該士会への資金や物資等の提供等 ⅱ 災害対策本部は、支援活動の定期的な報告及び必要に応じた広報を行う。 ⑥災害支援活動の終了 ⅰ 本会理事会は、本会としての災害支援活動の終了を確認し、災害対策本部と連絡調整室を解散し、災害対策室の平時活動への移行を決定する。 |
②第2次対応(目安:発生後1週間~1ヶ月程度) ⅲ 災害対策本部は、決定した支援計画を当該士会に報告し、実施する。 ⅳ 災害対策本部は、支援計画に基づき支援活動を開始する。 ③第3次対応(目安:発生後1ヶ月~6ヶ月程度) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、支援活動を継続的に展開する。 ⅱ 災害対策室は適宜に支援計画 ・活動を総括、会員 ・国民に広報し、災害対策本部に支援活動の定期的な報告および必要な追加支援等についての提案 ・ 広報を行う。 ④第4次対応(目安:発生後6ヶ月~1年程度) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、支援活動を継続的に展開する。 ⅱ 災害対策室は適宜に総括し、災害対策本部に支援活動の定期的な報告および必要な追加支援等についての提案・広報を行う。 ⅲ 災害対策本部は、状況に応じて、暫定的な総括を行う。 ⅳ 災害対策本部は、必要に応じて国や地方自治体、他団体に対する要望活動を行うよう提案する。 ⑤第5次対応(目安:必要に応じて、その後も継続) ⅰ 災害対策本部は、被災地の状況及び当該士会の要請に応じ、支援活動を継続的に展開する。 ⑥災害支援活動の終了 ⅰ 災害対策本部は、総括の結果から災害支援活動の終了を確認し、災害対策本部の解散を会長に提案する。 ⅱ 会長は災害対策本部の解散について理事会に提案し、決議を得る。 ⅲ 理事会の決議後、災害対策本部は解散し、平時の活動へ引き継ぐ。 ⅳ 災害対策課は、被災状況と本会の対応を記録・整理し、永久保管する。 |
(4)JRAT等への参画について
基本指針の「Ⅲ.本会の対応 1.国内災害への支援 2)時期別の対応指針 (1)平時の対応」のなかで、「⑦災害対策課は、一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)への参画をはじめとする関連他団体との連携を図り、災害発生時の連絡体制と連携方法を整備する」としています。しかし、本年の能登半島地震で、基本指針における本会の会員と士会に行う支援とJRATの活動と混同したり、会員・士会でも混乱が生じるといった状況がしばしばありました。今後もこうした混同・混乱が起こりうる危惧から、改めて図式化して会員・士会に向けてわかりやすく説明できるよう図1を付記しました。
図1 他団体への参画連携のイメージ
(5)災害発災情報検知時の手順
今回の検討にあたり、必要事項として「災害発災情報検知時の手順(仮称)」(表4)を追加しました。
表4 災害発災情報検知時の手順(仮称)
この手順は、報道等により災害発生の情報を検知した時の事務局の行動を示すことで、災害支援活動を円滑、かつ速やかに開始できるようにすることを目的とする。 1. 以下の災害情報を検知、大規模化またはその恐れがある場合、災害対策課は担当者を配置し、当該各士会に対して情報収集を行い、会長に情報を伝達する。 ①震度5(弱・強)の地震が発生した場合 ②気象庁が津波警報を発表した場合 ③地震、風水害その他の災害による住家に被害が準半壊未満であった場合 ④気象庁が風水害、雪害の警報を発表した場合 ⑤河川のはん濫警戒が発表された場合 2. 以下の災害情報を検知、大規模化またはその恐れがある場合、事務局は担当者を招集し、当該士会に対して情報収集を行うとともに、会長に「災害対策本部の設置」を進言する。 ①震度6以上の地震が発生した場合 ②気象庁が大津波警報を発表した場合 ③地震、風水害その他の災害により、住家の大規模半壊以上の被害の報道があった場合 ④風水害、雪害その他の災害により、家屋の床上浸水以上の被害の報道があった場合 ⑤河川のはん濫が発表された場合 ⑥上記の災害の他、土砂災害、大規模火災・爆発、その他により避難所の開設が発表された場合 3. 災害発生時の会員の会費免除の対象と範囲については以下のとおりとする。 ①災害発生時に会員本人が居住していた自宅が罹災した場合であり、本人が居住していない実家の罹災は対象としない。なお、「会員本人が居住していた自宅」は、持ち家・ 借家等の賃貸、社宅等は問わず、「震災発災時に居住していた」ことを要件とする。 ②罹災の範囲は以下の通りとする。 ・全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊 |
この内容は、「一般社団法人日本作業療法士協会『災害時規程に係る内規』」をもとに、初動を円滑にするために、自然災害の発災を検知した際、被災士会からの情報収集、災害対策本部の設置を行う災害規模の基準を示しています。これは、地震のみならず、これまで記載のなかった風水害や雪害、河川のはん濫等、近年頻発する多様な自然災害に対して、一定のルールのもとで喫緊の課題を解決し、協会として円滑に災害支援を進めることができることを目的としています。
また、災害発生時の会員の会費免除の対象と範囲についても、ここで定めています。
大規模災害支援活動基本指針の全面改定に向けて重ねてになりますが、今回の改定は「喫緊の課題」を中心に検討しました。このため、災害対策本部員からの以下の意見は「付記意見」(表5)として理事会で示され、今後の全面的な改定に際して反映していくこととなりました。
表5 災害対策本部員からの付記意見
〇第3次対応時期応(目安:発生後1ヵ月~6ヵ月程度)の人材採用について 今回の能登半島地震のタイミングも重なったと思いますが、被災地域における安定した作業療法士を提供する中で人材の補充、確保が必要とお聞きしておりました(4月の新卒採用の辞退、退職等)。つきまして、第3次対応中でも3ヶ月経過ごろには人材採用の求人に関する協会や各士会のサポートがあってもいいように思いました。 〇第3次対応時期のメンタルサポートについて 日々の生活が物資や安全の確保によりひと段落したころに、今後の生活、仕事面での不安から鬱傾向によるメンタルダウンも聞いております。そのため、作業療法士の専門分野でもあるかと思いますので、会員に向けて災害時のメンタルヘルス支援を追加してはいかがでしょうか? それに向けて今後は全国で研修等が必要になるかとは思います。 〇対応期限について 非常に難しい問題とは思いますが、終結時期についてですが、災害大国でもありますので、次の災害に向けて準備も必要と思いますので、原則1年を目安に終結してはどうですか? この見解については、過去に大規模災害に遭われた理事の皆様のご意見もお聞きしたいと思います |
全面改定に向けた作業ワーキンググループについては、地域社会振興部災害対策課のなかに設置します。グループのメンバーは災害対策本部を中心に本会会員、他職種や有識者といった外部メンバーを含む構成を検討しています。
むすびに
2011年の東日本大震災から13年が経過し、多くの災害を経験してきましたが、このたび改めて災害に対しての発災後の支援活動を円滑に始めること、それを継続することの難しさと平時からの備えの重要さを実感しました。また、「南海トラフ地震」等の大規模災害だけではなく、近年の風水害、土砂災害、特に「線状降水帯」による災害が頻発している現状では、より一層に平時からの備えを意識し、緊急時に備えるとともに、万が一の災害発災時に円滑に初動体制を整備することで会員と士会の支援を進めることが本会の重要な責務であると考えています。
今後は、改めて想定できるさまざまな災害に対して、本会としてどのようなことができるのか、会員と士会への支援とともに職能団体としての社会的責務を含めた災害対策への行動指針の策定に向けた検討作業を進めることになります。
「備えあれば憂いなし」とはよく言われることですが、改めて本会としても行動を具体化していくことになります。併せて、会員一人ひとりが、身近なことから災害意識を高めることが災害による被害を少しでも軽減することにつながることを意識してほしいと思います。
(災害対策本部 本部長 山本 伸一)