認知症の方の「困りごと」解決のための3つのステップ(2/4)
認知症の方とご家族の支援をしている作業療法士のインタビュー、山口智晴さん(群馬医療福祉大学)の2回目です。
認知症の方の「困りごと」を解決するためのまず最初のステップは…
Step1 「困りごと」を明らかにする
認知症の人は、物忘れがあることに気づいている
認知症の人は、病識がないと言われることがあります。病識というのは、「自分は病気だ」という客観的事実を認識することです。つまり認知症という病気には、症状を自覚しづらい性質があるということです。
しかし、実際に認知症と診断された方と接していると、ほとんどの方が、何となく物忘れがあることに気づいています。特に初期の人や若い人ほど敏感です。だからといって、こちらが「何か、困ったことはありませんか?」と聞いても、「特に困ったことはないよ」といった答えが返ってくることも多いです。
そんなとき私は、その方が「忘れっぽくなったな」と感じていることを、言葉にしやすいように会話を進めることを心がけます。具体的には、「多くの高齢者の方から、『腰が痛い』『膝が痛い』『忘れっぽい』のうち、どれかの相談を受けます。○○さんの年代だと、『物忘れ』で困る方が多いようですが、どうでしょうかね?」などとお話します。すると「年を取れば、忘れっぽくなりますからね」「年相応だけど、たしかに忘れることはあるね」などという話が出てきます。そんなときには、もの忘れが原因で生じやすい、生活の中の「困りごと」について話を聞いていきます。その際に心がけているのは、できるだけ具体的に質問することです。例えば「『薬を飲み忘れる』とか、『カレンダーを見ても今日の日付がわからない』とか、『約束をすっぽかしてしまう』という経験がある方が多いようですね。◯◯さんは、どうですか?」と質問します。
私がその方から話を聞きたいのは、その方が認知症かどうかを確認するために必要な情報ではありません。あくまでも、その方が何に困っていると感じているのかを確認し、もしかしたら困りごと解決のお手伝いができる可能性があるということをお伝えすることが目的です。
認知症に対する偏見を解消し、困りごとを相談できる雰囲気が大切
ご本人が認知症であることを恥ずかしいと感じている場合には、誰にでも起こりうることを数字で分かりやすくお伝えします。具体的には、次のような情報です。
日本の認知症の人の数を予測したデータはいろいろありますが、なかでも有名なのは、2025年に認知症の人が約700万人になるという推計です。一方、文部科学省のデータによると2017年の全国の小学生の数は645万人です。しかも、今後、小学生の数はもっと減っていきます。つまり、近い将来、小学生の数より認知症の人の数が多くなる。それが日本の現状なのです。
このような情報をあえて認知症の人にお伝えするのは、特に高齢者の方 の中には“認知症”という言葉に対する偏見があると感じるからです。私は、担当させていただいた多くの認知症の人から「認知症だと思われたくない」「この人は認知症だという目で見られるのがつらい」という話を聞きました。なかには、「認知症になるぐらいなら、死んだ方がましだ」とおっしゃる方もいました。このような認知症に対する偏見が、ほんとうは忘れっぽさから生じている「困りごと」があるのに、そのことを言葉にしづらくしているのだと思います。だからこそ、時には「小学生の数よりも、認知症の人の数の方が多くなるくらい、誰にでも起こる一般的なこと」とお伝えすることがあるのです。
Step 1 「困りごと」を明らかにするポイント
1.忘れっぽさが原因で、生活の中でどのようなことに困っているかをたずねる
2.その際は、困りごとを話しやすいように配慮する
3.認知症への偏見や不安に対し、具体例を示してその解消を図る