認知症の方の「困りごと」解決のための3つのステップ(4/4)
認知症の方とご家族の支援をしている作業療法士のインタビュー、山口智晴さん(群馬医療福祉大学)の最終回です。
前の回はこちらからご覧ください。 1回目 2回目 3回目
Step3 改善方法を提案、一緒に検討して実施する
メモを貼ることでかえって混乱する場合もある
Yさんの話に戻ります。「困りごと」の原因がわかったので、息子さんたちは、Yさんにデイサービスの利用料金は口座引き落としであることや、デイサービスの予定を説明しました。しかし、Yさんは説明を聞いてその場で納得されても、すぐに忘れてしまいます。それを防ごうとして、Yさんはカレンダーに予定を書き込み、家中にメモを貼りました。ところが“注意機能の低下”があるため、情報量が多いことでかえってYさんは混乱してしまいました。そして不安のあまり、息子さんのところに何度も電話をかけてしまうことが続きました。
さまざまなツールを活用することも大切
一方、Yさんは気持ちが落ち着いているときは、日付けや曜日がわからなければ携帯電話や新聞で確認できますし、家事や身の回りの動作にも問題がありませんでした。そこで今までの暮らしを継続できるように、息子さんたちと相談して以下の方法をとることにしました。
1)カレンダーを撤去し、代わりにシンプルなホワイトボードを設置。デイサービスの予定はマグネットを貼り付けて管理する。また、日付けと曜日がわからなくなったとき、すぐに確認できるよう、ホワイトボードの横に「日付表示機能付き電波時計(デジタル日めくりカレンダー)」を設置。
2)服薬を1日1回にまとめてもらい、日付けのみで曜日がないシンプルなタペストリー(服薬管理カレンダー)で管理することにした。
3)デイサービスの支払など、Yさんが心配になりやすいことはメモに書いて、電波時計の近くに貼った。
4)デイサービスの前日の夜、息子さんや奥さんが確認の電話を入れる。
自分たちの状況に合わせて判断する
4番目の対応は、一見すると手間がかかるようにも感じます。しかし、「何度もかかってくる電話に対応するよりは負担が減る」というご家族の判断で、確認の電話をすることになりました。
ほかにも、何度も通帳を出したりしまったりしているうちに、どこにしまったか、わからなくなることがありました。そこでYさんと息子さんで相談してもらい、息子さんが通帳を預かること、週末一緒に買い物に出かけたときにキャッシュカードでお金を下ろすことにしました。その後、通帳を息子さんに預けたことを忘れたYさんは、「通帳がなくなった」と息子さんに電話をすることがありました。そこで、以前Yさんが通帳を入れていたお菓子の缶に、“通帳は○○(息子の名前)に預けた”とYさん自筆のメモを貼りました。その結果、Yさんからの電話の回数が減りました。
また、デイサービスの前日、Yさんは明日の準備で混乱することがあったので、息子さんが写真つきの必要物リストを作ってくれました。さらに、デイサービスの送迎予定時間前にもかかわらず「迎えが来ない」という電話が入ることがあったので、「デイサービスのお迎えは○時。遅れる場合は電話連絡があるので待つ」というメモを玄関に貼ってくれました。
「支援チーム」の力を借りることは、家族が“専門家”として力を発揮すること
このように、こちらから提案した改善方法を、ご家族の方と一緒に検討を加えながら実行して、課題があれば、新たな方法を検討することを大切にしています。最初にもお伝えしましたが、認知症の方との関わり方については、長い年月をともにしたご家族のみなさまの方がご本人の“専門家”です。私たちができるのは、ご家族の方が“専門家”として力を発揮していただけるように、サポートすることです。
認知症の方やご家族の方の「困りごと」は、個別の対応が必要な場合が多いと感じます。ぜひ、さまざまな立場のメンバーがお手伝いをする「支援チーム」を活用していただければと思います。そのプロセスを通して、家族のみなさんがご本人の“専門家”として力を発揮できるようになることが私たちの願いです。
山口さんが絵本をつくりました。
認知症の人はどんな気持ちかな?自分ならどうしてもらいたいかな?
お子さんと一緒に想像を巡らせながら認知症について知ることのできる絵本です。