性格の変わった父を受け入れられない
父親が転倒により頭部外傷を受けました。退院後、以前とは性格が変わり、怒りっぽく、気まぐれになったことを家族としてどう受け止めていいのかわからず、困惑しています。父とどのように接すればよいのでしょうか?
父親が転倒により頭部外傷を受けました。退院後、以前とは性格が変わり、怒りっぽく、気まぐれになったことを家族としてどう受け止めていいのかわからず、困惑しています。父とどのように接すればよいのでしょうか?
頭部外傷に伴う障害として性格が変わったり怒りっぽくなったりすることはよく知られている症状の一つです。しかし、ご家族からすると優しかった父親が…、面倒見のよかった父親が…、と戸惑い、どのように接したらいいのかわからなくなってしまうと思います。
まず、頭部外傷に伴う怒りっぽさについて説明させていただきます。頭部に外力が加わり、脳に損傷が与えられるとさまざまな症状を引き起こすことがあります。脳の損傷後の症状として代表的なものは、目に見える症状として麻痺があり、目に見えにくい症状として高次脳機能障害があります。高次脳機能障害の症状は多岐にわたりますが、注意が散漫になってしまうなどの注意障害や物事が覚えにくくなってしまうなどの記憶障害、そして自分の感情がうまくコントロールできなくなるという症状があります。お父様はおそらくこの症状が要因となって怒りっぽく気まぐれになっているように見えているのだと思います。
では、怒りっぽくなってしまった時にどのように接したらいいかの、私の経験を踏まえてお話しいたします。
怒ったり不機嫌になったりする時は、ご本人のなかで何か納得がいかないことがあることが多く、それが何かは人により、状況・環境により異なります。お父様が怒りっぽくなってしまう時はどのような時でしょうか。私が以前担当していた患者は、毎日同じ時間に起きて同じ時間に運動などをしていましたが、毎日の予定が狂うと怒りっぽくなってしまうなどの症状が見られました。その時は入院中だったので、リハビリテーションの時間を固定し、入浴の時間や時間帯ごとに病院のどこで過ごすかを決めるだけで怒りっぽさが軽減しました。また、ある特定のスタッフに対して怒ってしまう患者がいらっしゃいました。怒っている時はなぜ怒っているのか聴取ができなかったのですが、後々その患者に直接聞いてみると、スタッフの言葉遣いが良くなかったとおっしゃっていました。ご家族に詳しく聞くと元々言葉遣いや礼儀を重んじる方だったようで、挨拶の仕方やちょっとした言葉遣いで怒ってしまったようです。
このように怒ってしまう理由が必ずあると思いますので、何をしているときに、どのようなことで怒ってしまうのか、また、どのように怒ってしまうのかを知ることが大切です。今までの生活やお父様の元々の性格を考えて何か不満や不安に思っているようなことがあるかもしれません。普段の生活であれば特に気に留めなかった小さなことももしかしたらお父様にして見たらとても大きな出来事のこともあります。本来やりたいことが頭部外傷を受傷してからできなくなっていないかという視点でも見てみましょう。そして、理由が何かあればそれをご家族で共有して対応を統一するようにしましょう。
また、ご家族の中だけで対応を考えることが難しければ専門家に頼ることも大切です。例えば介護保険を取得していれば、介護保険のサービスで訪問のリハビリテーションや通所のリハビリテーションといったサービスもあります。おそらく入院中にリハビリテーションを行っていたとは思いますが、在宅生活と入院生活は環境も生活も全く違います。訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションの作業療法士であれば家の環境や実際の生活リズム、今後の生活に関してより具体的に支援ができると思います。もし、介護保険でのリハビリテーションをまだ行っていないのであればそういったサービスを利用して実際の生活での困りごとなどを相談してみてください。
最後に、ご家族としては今までのお父様と重ねてしまうためどうしても苦しい思いをしてしまうかもしれません。しかし、感情コントロールがうまく行かないことがあるのは頭部外傷にもみられるの症状の一種です。お父様自身も怒りたくて怒ってしまうわけではありません。ご家族だけで抱えきれないことがあれば専門家に相談し、ご家族の負担を減らすことも考えてください。ご家族が自分のせいで大変な思いをしてしまうということはお父様にとっても苦しいと思うので、お父様、ご家族にとってより良い生活になるようにお考えいただければと思います。
■回答
広瀬方博(国際医療福祉大学塩谷病院)