認知症の患者さんで、どうしても徘徊がおさまらず、家族が疲労しています。このようなとき、作業療法士さんはどのような介入をしているのでしょうか?当事者だけでなく、家族や、近隣へのかかわり方も含めて、作業療法士の考え方を教えていただけないでしょうか。
認知症の患者さんで、どうしても徘徊がおさまらず、家族が疲労しています。このようなとき、作業療法士さんはどのような介入をしているのでしょうか?当事者だけでなく、家族や、近隣へのかかわり方も含めて、作業療法士の考え方を教えていただけないでしょうか。
徘徊について理解を深める
「徘徊」は認知症のBPSD(行動・心理症状)の一つです。家の中や外を絶えず歩き回ったりする状況は、客観的には目的不明に見えますが、本人にとっては、はっきりとした目的や外出して道に迷ってしまったなどいろいろな理由があります。本人にとっては切実な行動である場合が多いことを理解し、個人の特性に合った介護や関わり方を工夫するためには、①認知症の原因疾患 ②病期 ③趣味、職歴、生活歴 ④不安やストレスなどの環境要因など、一つずつ要因を分析し行動の背景を捉えて対応することです。
基本は、このような状況にならないように周りでケアする側が環境を整えることですが、行動が起こった場合は、無理やり止めたり、責めるような口調で注意したりせず、徐々に気持ちが落ち着くまで一緒に歩いたり、気持ちを逸らす対応をケアに関わる人々で共有することや同時に地域での見守り体制についても家族や支援チームで進めていくことが大切です。また、徘徊という用語については、近年、使わない動きが広がっています。※
考えられる要因
①場所の見当識障害や記憶障害から状況がわからない
見当識(何月何日、何曜日であるかなど自分がどこにいるかなどの時間や場所を認識すること)障害によって、自分が今いる場所がわからなくなり、不安からあちこち歩き回る行動に出ることがあります。環境の変化に対し、状況がわからず対応できなくなり、よく見知った頼りになる人を求めるように安心の場所を探して、「家に帰りたい」と徘徊につながります。今いる場所が自分の家ではないと感じ落ち着かずに外へ出てしまう、また本当の家を探しに出かけてしまうという場合があります。
②記憶障害から、自分の持ち物や場所を探す
置いた場所を忘れてしまい、家の中を歩き回るなどです。探しているはずのものが見つからず、探し続けてしまうことや、また、最初は目的があっても途中で何を探しているのかを忘れてしまい、徘徊に繋がる場合があります。認知症が中等度以上になると視空間の認知障害がおこり、よく慣れた場所でも方向が分からなくなり道順障害等の行動に障害が出てきます。
③誤認による徘徊
昔の生活をしているつもりで買い物、仕事、家事、散歩など勘違いして出歩いてしまうことがあります。仕事をしていると思い込み、職場を探して出かける事もあります。
④思考・判断力の障害、あるいは実行機能障害による徘徊
周囲の状況が判断できず、どのように行動してよいかわからない、手順や次にどのように行動してよいかが分からなくなり混乱してしまうとその場所から立ち去ってしまうことがあります。適切な判断ができなくなるため、道に迷っても人に聞く、電車に乗るなどの判断が難しくなります。また、欲動性や衝動性での抑えがきかず、徘徊につながることもあります。
⑤不安・不満・不信による徘徊
当たり前のようにできていたことができなくなると、「自分はどうしてしまったのだろうか」と不安になります。介護者の対応によって拒否や反抗、怒りっぽい言動が引き出されてしまい、中核症状に不安やストレスが重なった結果、行動・心理症状として徘徊が起こることがあります。また、何らかの刺激によって気分が高揚している場合や、じっとしているのが難しくなる「多動」の症状が出て、部屋をうろうろする場合もあります。
⑥前頭側頭葉型認知症の特徴的症状として
認知症の中でも、前頭側頭葉型認知症では、同じ行動を繰り返す症状が特徴として挙げられます。家の中であれば、ベッドから家を一周してまたベッドに戻る、という行動を繰返したり、外では毎日決まったコースを必ず1周するなど、同じパターンを繰り返す症状です。また、欲動性や衝動性での抑えがきかず、徘徊につながることもあります。
徘徊に対する環境調整
【屋内での徘徊の場合】
①声かけや誘導
トイレや部屋を探している場合も多いため、日々の習慣をチェックし、排泄の間隔をみながら「そろそろお手洗いに行きますか?」など声をかけてトイレに誘導するなど、本人が困った状況にならないよう事前に捉え、対応することが大切です。
②トイレやお部屋の場所を分かりやすくするなど視覚情報を活用する
トイレのドアにわかりやすい案内板やサインを貼っておくなどの工夫が効果的です。
③環境整備
家の中でも、敷居などのちょっとした段差で転倒する場合もありますので、段差をなくす、ぶつかってケガをするような物は置かないようにする等の工夫についても目を向けることです。
【外へ出てしまう場合】
①家の中や施設内の本人にとっての不安要素を考える
新しい環境であれば、馴染めるような関わりが必要です。幻覚が見える人では、知らない人が家にいるという恐怖を感じ、外へ逃げる人もいます。
②本人の言葉に耳を傾ける
不安や焦りが募って徘徊に繋がるケースがありますので役割を見つけて 安心できる「居場所」をつくっていくことが大切です。安全のため、と必要以上に行動を制限せず、必要とされていることを感じて活き活きとした時間を過ごすことができるよう関わります。
③住所や名前を服につけておく
1人で外に出てしまう場合は、GPS機能の付いた小さなアクセサリーなども販売されているものの利用や、服の内側や靴などに名前と連絡先を書いたワッペンのようなものをつけておくのも効果的です。家の外に出るようになると事故や行方不明になる危険も加わります。名前がわかるものを服に付けておくといった対策に加え、地域の人や警察にも理解と協力を求めることも大切です。
④自治体・外部サービスの活用
徘徊が発生すると、行方不明や事故の心配など、家族の精神的負担も大きくなりがちです。近所の方や地域包括支援センター、交番、民生委員などにもあらかじめ周知し、近所や新聞配達の方、できれば近所の交番などにも事情を話しておくなど、外で見かけた場合には家族に連絡が来るよう手配しておくことが重要です。常日頃から見守る人が大勢いたほうが安心です。
※徘徊という用語について
認知症の方から徘徊という言葉にはマイナスな印象があり、使わないでほしいという要望があるため、自治体などでは徘徊という言葉を使わない動きが広がっておりますが、言い換える言葉がまだ全国的に統一されていないことから、この記事内では徘徊という言葉を使用しております。ご了承ください。
■回答
長倉寿子(順心リハビリテーション病院地域リハビリテーションセンター)
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