食事の時に遊ぶようにして食べようとしない、認知症の患者。なんだかイライラして、全く手を付けようとしない時もあるという。このような場合どのように支援したらよいのか? 作業療法士が答えます。
特別養護老人ホームに勤務する介護職で、経験年数5年になります。認知症は中等度の女性の方ですが、食事の時に遊ぶようにして食べようとしません。なんだかイライラして全く手を付けようとしない時もあります。このような場合どのように支援したらよいのでしょうか?
その方は中等度の認知症ということですが、その他に診断名など、何か情報はありますか? というのも、たとえばアルツハイマー型認知症であれば『高次脳機能障害』が出やすく、食べようと思っていても、「うまく箸を操作することができない」、「食べ始めのきっかけがつかめない」などにより、ご本人にすればなんとかもがきながら食べようとしているのですが、それが遊んでいるように見える。あるいは、レビー小体型認知症の方であれば、『幻視』により、たとえば子どもが近くにいるように見えていて、その子に食事をあげようとしている仕草が遊んでいるように見えるかもしれません。認知症のタイプがわかると、出てきやすい症候(症状)が推測しやすくなり、対応方法もうかびやすくなります。
また、このような方が居ました。その方は朝食を全く食べない方でした。もともと食べない習慣を持っていた方なのかと思っていましたが、家族の話を聞くと朝食はしっかりと食べていた方でした。施設ではどうして食べないのか、家族の話をもう少し詳しく聞いていくうちにわかったのです。その方は朝食にはパンしか食べない習慣を持っていた方でした。施設の朝食は和食です。施設におられても、それまで培ってきた習慣はずっと体や心の底に息づいています。食べ物の好き嫌い、食べ方(全品バランスよく食べる、一品ずつ食べる)、など、体にしみこんだ食べ方ができないということも「食べる」ということには関係してきます。
さらに、上記の内容と関連してきますが、その方はそれまでどのような環境で食事をしてきた方でしょう。独居で一人静かに食事をしてきた方なのか、大家族で皆でワイワイ言いながら食事をしてきた方なのか。一人静かに食事を行ってきた方であれば、施設の広い食堂で、多くの方と一緒に食事をすることは非日常であり、騒がしかったり、職員や入居者が行き来する中で落ち着かなかったりする可能性があります。そうした環境要因も食事場面には影響することもあります。
以上、「食事をしない」という状況を、認知症の病気から出現する症状(impairment)によるものなのか、その方が長年培ってきた習慣(narrative)が影響しているのか、あるいは食事をする環境(environment)に影響されているのか、という視点で観察・分析して、少しでもご本人がたのしく、思うように日常生活ができるようにすることが大切です。
ケア(care)とは介護、お世話と訳されがちですが、本質は「注意してみる」、「気に掛ける」だと思います。「できない」ということをできないで終わらせるのではなく、「どのようにできないのか」と注意して観察してみることにより、その方に適した対応方法が思いつくこともあります。作業療法士であれば、そうした視点で症候(症状)を整理し、具体的な支援方法を考えていくために、何かお手伝いができるかもしれません。近くに作業療法士が居ましたら、ぜひ尋ねてみてください。
■回答
九州保健福祉大学 保健科学部 小川敬之