川崎医療福祉大学・妹尾勝利さん
義肢装具づくりには、専門職である義肢装具士はもちろん、医師やリハビリテーション職など様々な人が関わる。その中で、作業療法士が果たす役割とは、いったいどんなものだろうか。
川崎医療福祉大学の妹尾勝利さんは、四肢が欠損した人が使う「義肢装具」のなかでも、主に上肢、腕の欠損患者に対して、義手の適合を行っている。義手には、大きく分けて3つの種類がある。失った腕を見た目に違和感なく補う目的で使用される「装飾義手」、身体の動きでケーブルを操作し、手先の開閉や、肘の曲げ伸ばしができる「能動義手」、筋肉の微弱な電流を検知し、義手を動かすモーターのスイッチとして利用する「筋電義手」だ。このうち作業療法士が大きくかかわるのは「能動義手」と「筋電義手」の2種類。妹尾さんはなかでも「能動義手」の適合を専門にしている。
筋電義手(上)と能動義手(下)
義手づくりは、チームで行われる。医師の処方のもと、義肢装具士が、その人に適合した義手をつくる。その過程において作業療法士、理学療法士などリハビリテーション職が関わり、どんな義手がよいのかを患者と話し合ったり、また義手の使い方を指導することで、つくった義手がきちんと患者で使えるようになる。
その一連の流れの中で、作業療法士が果たすべき重要な役割は「まず、患者の気持ちをしっかりと受け止め、思いを聞く時間をつくること、患者のなかには、自分の思いをうまく表現できず、思いと言葉が違う方もいる。作業療法士は、その方の行動、生活などあらゆる情報から、その思いを分析し、今後のリハビリテーションに反映させていくこと」なのだと、妹尾さんは話す。妹尾さんが担当する患者の多くは、上肢を欠損してそれほど日がたっておらず、自分の気持ちを整理できていない人も少なくない。「そういう人に、いきなり義手について説明をしても、理解していただけないどころか、拒絶反応を示す人もいます。だから、まずは患者の話を聞くことから始めます」(妹尾さん)。患者が心を開き、今の自分と向き合い、今後の生活について考えることができるようになったと思ったら、義手について説明をし、どんな義手が必要かを患者と話し合う。
実は日常生活で必要になる動作の大半は、片手でもできる。だから片手を失った多くの人が、外観を補う目的で「装飾義手」を選択する。能動義手は重く、使いこなすのに練習や慣れが必要なため、使おうと考える人は少ない。「必ずしもすべての人に能動義手は必要ないのかもしれない。それでも、能動義手があったほうが、より『その人らしい』生活を送れることがあるんです」。たとえば手芸やプラモデルづくりなど、両手を使った繊細な作業を趣味にしている人、仕事で両手を使う作業をしていた人などは、能動義手を使うことで今まで同様の作業ができるようになる。「しっかりと患者と向き合い、信頼関係を構築していくことで、その人の生活にあわせた義手を一緒になって作り上げることができるのです」(妹尾さん)。義手を使い続けてもらい、片手を失った後も「その人らしい」暮らしを続けてもらうために、作業療法士の視点が生かされている。
■施設情報
川崎医療福祉大学 医療技術学部 リハビリテーション学科
〒701-0193
岡山県倉敷市松島288
電話:086-462-1111