犯した罪と向き合うことを支援する作業療法士
播磨社会復帰促進センター
受刑者の中には、少なからずの割合で知的障害、精神障害のある方がおり、刑務所での生活に課題をかかえていたり、出所後、社会にうまく適合することが出来ず、罪を重ねてしまう方がいる。官民共同運営による新しい刑務所では、受刑者が自分と向き合うことを支援し、再犯防止につなげている。
播磨社会復帰促進センター
「播磨社会復帰促進センター」は、国と民間企業が共同で運営する、新しい形態の刑務所だ。初犯で、懲役8年未満の、比較的軽微な罪を犯した人たちが服役している。近年「累犯障害者」と言う言葉が注目を集めている。軽微な犯罪で何度も服役する「累犯者」の中に、少なからぬ割合で知的障害、精神的に障害のある人がいるという。一度刑務所で罪を償ったとしても、出所後、社会にうまく適合することができず何度も犯罪に追い詰められてしまう。こうした事態を未然に防ぎ、障害のある人たちの社会復帰を支援するために、作業療法士をはじめ、臨床心理士、精神保健福祉士、ケースワーカーなど医療・福祉の専門職が従事しチームを組んで、受刑者の更生や出所後の生活環境の整備に関わっていることが、センターの大きな特徴だ。収容されている受刑者1000人のうち120人は、「特化ユニット」対象者として知的障害や発達障害、精神障害がある人たちの特別なプログラムにより各種処遇を行っている。
「特化ユニット」概念図
「なによりも必要なことは、まず自分の犯した罪と向き合うことを支援することです」と播磨社会復帰促進センターで働く作業療法士はいう。ともすれば障害者の出所後の生活に意識が向きがちになってしまうが、その前にまず、自らの過去と向き合い、反省しなければ、出所後の生活もうまくいかない。センターの受刑者は、犯した罪の種類によってそれぞれ異なる「改善指導」を受ける。講義やワークショップを通じ、犯罪の重大性や被害者の感情などに意識を向け、自分のやってしまったことを振り返る作業を通じて再犯しない意識を作っていく、受刑生活において重要な作業だ。「ところが、障害があるために、改善指導のペースに乗ることができない人がいるのです」自分の犯した罪を理解することができず、事件と向き合うことができない受刑者を、作業療法士の視点で支援する。具体的には、改善指導の内容を文字で理解することが難しい受刑者にはイラストなど視覚情報を使い、逆に絵など視覚情報での理解が難しい受刑者には文字情報を中心に伝える工夫をする。
また、受刑者の中で作業療法が必要とされた人に対して作業療法を行うことも、センターで働く作業療法士の仕事だ。「受刑生活を送る上で、出所後、再犯せずその人らしく生活してもらうためには何が必要かを常に考えています」。あくまでも罪を犯し、刑に服していることを忘れてはならないが、刑務所の中にも生活がある。「たとえば、受刑生活では衣類などの洗濯物を決められた日に自分で出す必要があるのですが、工場に掲示されている予定が読めずに自分で洗濯物を出せない人がいると職員さんから相談を受けたことがあります。そこで、本人が理解できる方法はないか作業療法で確認し、写真やイラストであれば理解できることが分かりました。そこで、工場の掲示物に写真・イラストを追加するといった環境への働きかけをすることで、自分で洗濯物が出せるようになりました」。こうしてその人が持っている能力を最大限に発揮し生活してもらうことが、出所後の生活の安定にもつながるという。さらにセンター内ケースワーカーや、地域の福祉施設などと連携し、出所後の生活環境を整備していくのも、作業療法士の重要な仕事だ。「出所後、以前と変わらない環境に戻ってしまうと、再犯につながりかねません。受刑生活の中でその人の能力等を把握したことを他職種と連携し、出所後の環境調整に活かしてもらっています」。
「受刑者の中には、自らの障害について知らなかったがゆえに犯罪に走ってしまった、という人が少なくありません。センターでの受刑生活を通じて自分の障害を理解し、自分と向き合う機会を作ってもらう。そのことが再犯防止につながると考えています」。障害があってもしっかりと受刑生活を送ることが、罪と向き合うことを助け、出所後の暮らしをしっかりとしたものにする。自らの過去と向き合い、未来に活かそうとする受刑者を、作業療法士が支えている。
■施設情報
播磨社会復帰促進センター
〒675-1297 兵庫県加古川市八幡町宗佐544
電話:079-430-5503