OTのスゴ技(作業療法士)

作業療法士の視点を生かしたロボット・AIの活用法

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田平隆行さん、吉満孝二さん(鹿児島大学)
 社会のさまざまな分野で、ロボットやAIの活用可能性が検討されている。「人が人を支援する」ことが当たり前と思われてきた医療・福祉の分野においても例外ではない。その時「支援者・当事者の本当のニーズとは、なにか」を見つめる作業療法士の果たす役割は大きい。

作業療法士の視点を生かしたロボット・AIの活用法

新しい見守りシステムの実証実験の様子

 近年、さまざまな分野で、ロボットやAIの導入が進んでいる。人手不足や生産性向上などの課題解決、今後の成長のために、製造業・農業・流通・サービス業など、それぞれの事業分野において、どのようにロボットやAIを取り入れていくのかを考える時代になった。

 医療・福祉の分野も例外ではない。なかでも介護分野においては、厚生労働省や経済産業省が主体となって、ロボット技術の介護利用における重点分野を設定し、高齢者や障害者を支援したり、あるいは介護する人の業務を支援するための「介護ロボット」の開発、普及が進められている。とりわけ、徘徊行動のある認知症患者の「見守り」は、介護ロボットの重点分野の一つであり、多くの企業が見守り支援システムを開発し、製品化している。

 「私たちは作業療法士の視点から、これまでの見守り支援システムには課題があると考えていました」と話すのは、鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻の田平隆行さんと吉満孝二さんだ。「確かに介護する側にとっては、業務を改善するために役立つものが多いのですが、介護される側にとっては、監視や管理をされる、行動を制限されるという印象を与えかねないと思っていました」。一方的な「管理」のシステムではなく、徘徊をする認知症患者本人を安心・安全に「支援」し、その人らしく日常生活を過ごしてもらうためのシステムが必要だと感じていた。

 田平さんと吉満さんは、日本作業療法士協会が厚生労働省老健局から受託した事業である「平成29年度 介護ロボットのニーズ・シーズ連携協調協議会設置事業」に参画し、介護の現場と当事者双方にとって必要なシステムとはどんなものかを検討することになった。介護の現場ニーズを調査するべく、日本作業療法士協会会員の所属している7施設を対象としてヒアリング調査を実施、さらに全国の施設にアンケート調査を行った。すると興味深いことがわかってきた。

 「徘徊のタイミングは対応する人が少ない夜勤帯が多く、焦燥や不安、帰宅願望がきっかけとなっているため、心理状態をいち早く察して悪化させない人的対応策が必要とされていることがわかりました。また、現場の支援者も徘徊には目的や意味があるという回答が多く、『徘徊を防ぐ』のではなく、適切に支援するための施策が求められていました」。 そこで、田平さん、吉満さんは、調査から抽出されたニーズに対応したシステムの検討を行った。

 「見守りベッドに関しては、アンケートでは、現在多くの施設で導入しているマット式離床センサやタッチ式離床センサ等の見守り機器は、徘徊する認知症患者の「転倒」に対して対応が遅れる,誤検知が多い等の問題が残されている.そのため、特に夜勤帯では、他の業務をしながら転倒リスクのある被介護者の見守りをすることに心的負担を感じている介護者が多くいることが分かりました」。現在主流の「体動」を早期に検知するセンサでは、頻繁にアラートがなり、介護者の負担が増加する。「そこで認知症患者の、呼吸数や脈拍数などのバイタルの変化から離床パターンを把握したうえで「離床の予測」ができる介護ロボットの提案を行いました」。

 また徘徊の見守りについては、目的や意味を感じているものの、その一方で、徘徊への対応が介護業務上の大きな負担になっていることがわかった。そこでIoT(モノのインターネット:あらゆるものをネットワークとつなぎ、相互に情報交換することで、モノ同士が互いに制御しあう技術)とナビゲーション技術を使い、安全に自室を出て、施設内を移動し、確実に自室に帰ってこられる施設内用移動支援を提案した。

 「今後乗り越えなければならない技術的な課題はありますが、介護者の内心と認知症高齢者の自尊心、自発的行為を尊重するという視点で介護ロボットの提案ができたことは作業療法士だからこそと考えています」。医療・福祉の現場に、システムやロボットの導入が進もうとしている今だからこそ、人と向き合い、その人の本当のニーズを探る、作業療法士の視点が求められるのかもしれない。

■施設情報
鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻
〒890-8544 鹿児島市桜ケ丘8丁目-35-1
電話:099-275-6780