OTのスゴ技(作業療法士)

高次脳機能障害とIT機器のカンケイとは?

OTのスゴ技

福祉用具

誰もが便利に使いこなしているスマホやパソコンなどのIT機器。障害があってもIT機器を使いこなしたい。そんなニーズに応える研究をしている作業療法士がいました。さて、高次脳機能障害のある人にとって使いやすいIT機器とは?

ケータイは、一番身近なサポートツール

 誰もが便利に使いこなしているスマホやパソコンなどのIT機器。障害のある人にとっては、上手に使えば自分の暮らしをサポートしてくれる便利なものでもあります。障害があってもIT機器を使いこなしたい。そんなニーズに応える研究をしている作業療法士がいました。さて、高次脳機能障害のある人にとって使いやすいIT機器とは?

1.はじめに

 現代社会では携帯電話、パソコン、駅の発券機や銀行ATMなどの電子機器は生活するのに必要不可欠であり、使用する機会は以前に比べて多くなっています。これらの機器には、多くの機能を持つためにボタンの数が多くなったり、タッチパネル式の操作だったり、従来の機器に比べて複雑化してきています。便利な機器が増えてきているように思えますが、高齢者や認知症、高次脳機能障害を呈した方にとっては電子機器が使えず、生活に支障が生じる場合があります。

2.海外での研究

 スウェーデンのカロリンスカ研究所では高齢者や認知症を呈した方に対して、携帯電話やパソコン、掃除機やリモコンなどの様々な家電製品の使用状況を調査した研究が行われています。認知機能が低下していくと家電製品の使用が困難になり、応用的な日常生活が制限されてくるという結果が出ています。要するに、家電製品の使用状況を調査することが、認知症の診断や認知症の経過を追うための一助になると結論づけています。

3.高次脳機能障害を呈した方の電子機器操作①

 高次脳機能障害を呈した方でも同様で、食事や排泄、入浴などの身辺動作といった日常生活が成り立ったとしても、リモコンや携帯電話、銀行ATMが使えないなど応用的な日常生活に制限が生じる場合があります。高次脳機能障害を呈した方に合った電子機器操作を提供するためには、まずはどうして操作ができないかを検証する必要があります。
研究のひとつに、携帯電話操作が困難となった失語(左半球損傷)と右半球損傷の症例について、携帯電話操作の違いを調査したものがあります。実際に携帯電話を使用して、着信の対応、カメラモードでの撮影、目覚まし時計の設定、メールの作成などの課題を施行しました。その結果、健常者に比べると高次脳機能障害を呈した症例は工程数が多くなると操作ができなくなり、中でも失語例は文字列で提示されている画面での選択操作やメールの文字入力の工程で誘導を必要としました。一方、右半球損傷例は画面情報とボタン配列をリンクさせるといった、より空間的な処理を必要とする工程で誘導を必要としました。このように高次脳機能障害の症状や脳損傷部位によって電子機器操作が困難となる要因が異なることが示唆されました。

4.高次脳機能障害を呈した方の電子機器操作②

 さらに、症状や脳損傷部位を特定して調査を進めました。高次脳機能障害のひとつにバリント症候群という両側の頭頂葉を中心とした損傷で同時に2つ以上の物を見ることができない、視線が移動できない、見えているのに物が取れないといった症状が生じることがあります。このようなバリント症候群の症例と対照例(記憶障害の症例と健常者)に対して、スマートフォン、2つ折りの携帯電話、凹凸のボタンがある電卓機を使用して1桁から11桁の番号を入力する課題を施行しました。その結果、症状が重度の症例では1桁の入力から遂行が困難となり、症状が軽度の症例でも対照例と比較すると大幅に時間を要していました。また、操作ができない要因を分析するとバリント症候群の症例はタッチパネル操作でエラーが多く、エラーをしても気づかない傾向がありました。このことから、バリント症候群を呈した症例は電子機器の数字入力では、特徴的な操作のしづらさがあると示唆されました。
以上のように、高次脳機能障害を呈した方は様々な要因で電子機器操作が困難になると思われます。今後は高次脳機能障害の症状に合った電子機器操作を探求するため、操作画面の見せ方やボタンの形状など様々な条件で研究を進めていきたいと思っています。

■執筆
医療法人財団 樹徳会 上ヶ原病院リハビリテーション科
神戸大学大学院保健学研究科 砂川耕作