はたらくことは、いきること

「畑の作業療法」が、人のやりがいや生きがいを作る

はたらくことはいきること

高齢者

認知症

医療法人財団緑秀会 田無病院
 作業療法に農作業を取り入れている作業療法士がいる。「何かを作る」こと、そして「作ったものが、誰かを喜ばせること」が、その人のやりがいや生きがいを作り出し、高い効果を上げているという。

「畑の作業療法」が、人のやりがいや生きがいを作る

 東京都西東京市の田無病院では、2014年から作業療法の現場に農作業を取り入れ、話題を呼んでいる。きっかけとなったのは、近隣にある東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構からの呼びかけだった。「東大農場」として地域から親しまれている同機構では、地域交流を目的に「地産地消」の動きに取り組んでいて、その流れで田無病院にも東大農場で取れた野菜を病院食に取り入れてもらおうと声がかかった。

 東大農場から提供された野菜を食べるだけでなく、こちらからの働きかけはできないかと、同病院に勤務する作業療法士たちが考え出したアイデアが、作業療法の時間に農業を取り入れることだった。全国的には、これまでも同様の取り組みはあったが、対象となるのは主に統合失調症や発達障害など精神領域の患者に限られることが多かった。田無病院では脳血管障害や認知症の患者が多いが、こうした人たちを対象に農業で作業療法をするという試みは、全国でも珍しい。

 提案には不安もあったという。精神疾患のある人たちと違って、高齢者や運動機能に障害のある人が多い。そもそも農作業ができるのか、十分な体力があるのかという懸念が、医師や看護師から出された。また作業療法の効果についても、わからないことが多かった。そこでまずは試験的に病院内の花壇を活用し、東大農場のスタッフに農業指導をしてもらいながらスタートしたのが2015年4月のこと。やってみるとすぐに、参加者たちに変化が起こることが分かった。特に、運動機能が明らかに改善する人が多かったという。驚いたことに、室内で行う作業療法では出来なかったことが、農業では出来るようになった人が現れた。しゃがむ、腰をかがめるという動作ができなかったはずなのに「そこになっているナスを取ってください」と作業療法士がお願いすると、自然に腰をかがめて収穫しているのだという。

 他にも、認知症で時間の感覚があいまいだった人も、農作業を続けることで「今日は作業の日だね」と、日付や曜日を意識するようになったという。農作業をすると、患者が自分で考えて行動するようになる。今は何のためにどんな作業をしているのか、そのために自分は何をすればいいのか、こちらから働きかけなくても自分で動くようになる。それが良い効果をもたらしているのではないかと、同病院では考えている。

 2016年からは東大農場を訪問して農作業をするようになった。作っているのは「江戸伝統野菜」と呼ばれる、地元で作られてきた野菜。「千住ねぎ」や「練馬大根」など、慣れ親しんだ地名を含む品種の野菜を作っていることも、患者にとってよい刺激となっているという。取れた野菜は病院食としてみんなで食べたり、配ったりもする。生産性のある仕事、結果が出る仕事である、ということが大切だという。野菜ができると、誇らしげに職員や他の入院患者に話してくれる人も多い。

 同病院では、今後は東大農場をベースに、退院した人や地域の人も巻き込んだ交流の輪を広げていきたい考えだ。「誰かの役に立つ」作業が、生きる喜び、生きがいを作り出し、それがその人の暮らしを豊かにしていく。

医療法人財団緑秀会 田無病院

■施設情報
医療法人財団緑秀会 田無病院
〒188-0002 東京都西東京市緑町3丁目6番地1号
電話:042-461-2682(代表)