大阪発達総合療育センター・黒澤淳二さん
脳損傷により運動機能に障害が残った「脳性まひ」の子どもに対するリハビリテーションには、医師をはじめさまざまな職種がチームとなって関わる。チームの中で作業療法士が果たす役割とは、どんなものなのだろうか。
妊娠中の胎児、あるいは生後間もない新生児が脳損傷を受け、運動機能に障害が残ると、「脳性まひ」となる。多くの脳性まひ児は、まずは医療機関で急性期を過ごし、状態が安定したのちに、リハビリテーションを受けることになる。大阪発達総合療育センター・リハビリテーション部長黒澤淳二さんは、「医師を中心に、看護師、理学療法士、言語聴覚士など、多くの職種が一人の脳性まひ児にかかわります」という。その中でも、作業療法士は重要な役割を果たすことができるとのこと。
「子どもは、急性期から『あれができない』『これができない』と言われ、『ないないづくし』の環境にさらされています。『できない』と言われることには、あきあきしている。それは新生児であっても、です」(黒澤さん)。やむを得ないことかもしれないが、健常児と比較し、機能的にどこが足りないかを検証し、それが「できるようになる」ためにリハビリテーションをする。その過程で傷つき立ち直れない状態になってしまう子どもが少なくないのだという。「だから私は、まずまっさらの状態で子どもと向き合い『できること』を一緒に探していこうとします」。時にはリハビリテーションの時間に、一緒に寝ころび、そばにいるだけの時間を過ごすこともあるのだという。「不思議なもので、そうすると、必ず『なにか』が起こる。その機会を共有する。一緒に笑ってあげる」。そうすると子どもは「なんだこの人は」という目で作業療法士を見るようになる。そこからまた、できることを一緒に探していくことの繰り返しで、子どもは「個人的な経験から言えば、重症の人であればあるほど、このような作業療法士の接し方が『伝わる』し、そのことによって『変わって』いくと感じます」。
子どもへのかかわりと同様に大切になるのが、家族とのかかわり方だ。「『母親以外は受け入れない』という子どももいます。それくらい家族との関係性は重要なのですが、家族が健常児と自分の子どもとを比較し『あれができない』『これができない』とまず先に子どもを追いつめている場合も少なくないのです」。作業療法士が子どもに「普通」に接する姿を示してあげることで、そうした家族の気持ちがほぐれ、子どもに対する見方、接し方が変わってくるのだという。
こうして、子どもや家族に対するかかわりを通じて作業療法士独自の姿勢、立ち位置を示していくことは、リハビリテーションチーム全体にも影響を与える。「それぞれの職種が、それぞれ目的をもって子どもや家族に接しています。しかし、それはあくまで支援する側の目的であって、子どもと家族にとって窮屈になってしまうことがある。作業療法士はそこに具体的な作業を通して『遊び=余力』を作ってあげることができる」。作業療法士が子どもや家族とかかわることで、チーム全員のそれぞれの働きの「つなぎ役」を果たすことができるのだという。「カンファレンスやケース会議など、チームのメンバー同士が情報共有することは必要ですが、私は子どもへのかかわりを通じ、子どもが具体的な作業を通して変わっていくことで、チームや家族、かかわる人たちも変わっていくことができると思っています。そのために作業療法士の果たす役割は大きい」。
脳性まひ児への支援は、生涯にわたって続く。当事者と同じ目線で、一緒になって「できること」を探し続ける作業療法士の視点は、脳性まひとともに生きていく人たちの支えとなっていくだろう。
■施設情報
社会福祉法人 愛徳福祉会 大阪発達総合療育センター
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大阪府大阪市東住吉区山坂5丁目11-21
電話:06-6699-8731