訪問看護ステーション花あかり・村井達彦さん
「心臓リハビリテーション」という聞きなれない言葉がある。循環器疾患で入院した患者のリハビリテーションだが、近年、地域で生活する循環器疾患の患者に対する心臓リハビリテーションが注目を集めている。この取り組みにおける作業療法士の役割を探る。
群馬県桐生市の訪問看護ステーション「花あかり」は、「循環器疾患特化型訪問看護ステーション」として、2年前の2016(平成28)年に設立された。「循環器疾患に特化した訪問看護ステーションは、全国でもまだ珍しいのではないでしょうか」と話すのは、花あかり代表を務める作業療法士・村井達彦さんだ。村井さんは作業療法士であると同時に「心臓リハビリテーション指導士」でもある。心臓リハビリテーション指導士は、医師や看護師、作業療法士などの医療職の中で研修を受け資格試験に合格した者に与えられる、多職種のチームによる心臓リハビリテーションを行うためには必須の資格だ。
心臓リハビリテーションとは、循環器疾患で手術を受けた人に対するリハビリテーションだが、今後の地域医療を考えるうえで大きなテーマとなってくると村井さんは言う。「心臓リハビリテーションには大きく分けると2つの領域があります。ひとつは、手術後から退院までのリハビリテーション、そしてもうひとつが、今私が取り組んでいる、退院後の地域生活を支えるリハビリテーションです」。循環器疾患で入院し、手術・治療を受けた患者の中には、心肺機能が大きく損なわれ、日常の基本動作が難しくなっている人も多い。入院中に行われる心臓リハビリテーションは、心肺機能を維持向上させつつ、ベッドから起き立ち上がる、歩くなどの基本的な生活動作が行えるよう指導・支援していくことが中心になり、退院後の再発予防まで含めた患者への指導を行う。
これに対し退院後の心臓リハビリテーションには、その人それぞれの生活環境や暮らしに対する希望などに合わせた支援が必要になる。運動機能の維持・向上だけでなく、生活環境の見直しや、福祉器具・住宅改修なども含めた環境整備などもあわせて、その人にとって最適な生活を送ることができるように支援する。循環器疾患(特に慢性心不全)の場合、完治して退院する人は少なく、再発や悪化の不安を抱えながらの生活になる。また比較的短時間で容体が大きく変わることが多いため、患者の状況を常に把握すると同時に、状況に応じて適切に介入し、医療機関と連携していく必要がある。花あかりでも、自施設の作業療法士・看護師の他、管理栄養士、医師、ケアマネジャーなど他施設と連携しながら、チームで患者の生活を支援する。「地域での心臓リハビリテーションは、患者を生活の視点から評価し支援ができる作業療法士が中心となって行うことがよいと考えています」と村井さん。
たとえば村井さんが担当した80代女性の事例を見てみよう。この女性はもともと自宅の3階に自室があって、2階の食堂まで、食事のたびに15段ほどの階段を上り下りしなくてはならない。しかし退院後の体力回復は不十分で、3メートル先のトイレに行くにも息切れを起こす、という状況だった。そこで村井さんは、まず自室を2階に移し、移動の負担を減らすことを提案した。しかし患者は生活環境が変わることを嫌がり、この提案を拒否。そこで村井さんはストレッチやエアロバイクなどによる有酸素運動により身体機能の向上を図ると同時に、本人や家族に食事や休憩の仕方など生活指導を行うことで、息切れなどの状況が改善した。「循環器疾患の場合、運動により身体に負荷をかけることが再発や悪化につながるリスクがあります。普段の階段の上り下りなどが、気づかぬうちに大きな負荷をかけていることもありますから、その人の生活の状況をしっかりと把握し、環境を調整することが重要になります」と村井さん。
地域における「心臓リハビリテーション」の重要性はまだまだ知られていないというが、2年間活動してみて、地域には多くのニーズがあることがわかってきたという。「医療・看護・リハビリテーションに携わる多職種が協働して、患者一人ひとりの生活にあわせたオーダーメイドの体制・対応が求められています」と村井さん。作業療法士を中心に、循環器疾患の人たちの地域での暮らしを支える活動がこれからますます広がっていくことだろう。
■施設情報
訪問看護ステーション花あかり
〒376-0121
群馬県桐生市新里町新川715-1
ファミリアイマイE号室
電話:0277-51-3124