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訪問の現場には、支援のための情報が詰まっている

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生活環境

訪問看護ステーションACT-J 足立千啓、真嶋信二、五ノ坪洋孝、永井美早
 千葉県市川市に、重度精神障害者の地域生活をチームで支援する訪問看護ステーションがある。そこで働く作業療法士の役割はいったいどんなものだろうか。訪問看護ステーションACT-Jの作業療法士の皆さんに話を聞いた。

利用者Wさん(左)と、買ったばかりの炊飯器の使い方を一緒に確認。

利用者Wさん(左)と、買ったばかりの炊飯器の使い方を一緒に確認。

 認定NPO法人リカバリーサポートセンターACTIPSが運営する訪問看護ステーションACT-Jでは、地域の重度精神障害者に対して、チームでの訪問看護を行っている。日本では以前から精神病患者の退院後の再入院が課題となっている。とくに、複数の難しい生活課題を抱えている重い精神障害者は、従来の地域精神保健の支援システムからこぼれ落ちやすく、地域生活の場にうまく定着できずに、多くの人が再入院をしてしまう。そこで、彼らに対して、多職種チームが生活の場に訪問し、包括的な支援をする「ACT(Assertive Community Treatment/包括型地域生活支援プログラム)」というアプローチ方法を採用しているのが、訪問看護ステーションACT-Jの特色だ。

 ACTの支援は、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士など多職種で構成されたチームが行う。通常は1人の利用者に対し、必ず複数の担当がつき、多角的な視点からの評価・支援をする。利用者の情報はチーム全体で共有し、訪問の頻度は利用者の状態によっても変わるが、多くの場合週2回以上、生活上の危機を乗り越えるために毎日のように訪問することもあるという。ACT-Jでは、千葉県市川市全域と、松戸市の南部で、現在56人の利用者に対して訪問サービスを提供している。

 ACTの対象者が地域で生活していくためには、生活面と医療面の安定という両輪が必要だが、彼らは発病の経緯から、病気を認めがたく、服薬への抵抗感が強く、怠薬から再発を繰り返し、強制的な入院を体験し、家族関係の悪化や医療への不信感が強い場合が多い。支援自体への抵抗感が強い中で支援が始まるため、その意向を丁寧に把握し、困りごとへのタイムリーな対応や関心ごとへの共感を示す姿勢などから、時間を共に過ごしてもよい相手として受け入れてもらうことが、まず重要だ。それができなければ、ドアを開けてもらえず訪問での支援は始まらない。ATCの支援に携わるスタッフは、まずなによりも「利用者・家族とのよりよい関係性のあり方」「協働性」「対話」「リカバリー」を常に意識し、支援の有り様に反映できるよう心がける必要がある。一人一人の人生の歩みを理解した、オーダーメード型の支援が求められる。

 その上で、訪問というかたちで利用者を生活の場で支援することのメリットとして、一人ひとりの実際のニーズに即した、適切な支援を行えることが挙げられる。例えば「せっかく病院で炊事の動作を練習しても、自宅のガス台のメーカーや形式が違うだけで使うことができず、自炊ができない。そのために生活が乱れてしまう」ということさえ起きるという。この場合、訪問であれば、自宅のガス台の使い方を支援できる、ということだけを意味しない。調理にガスを使う必要があるのか(例えば、電子レンジなどを活用できないか)、この方には「自炊」が必要なのか(総菜などを買ってきてもいいのではないか)、など、その人の実際の生活を見ながら、本当に必要な支援とはなにかを一緒に考えることができる。その意味でも、生活の現場で、その人に合った実際の暮らしを支援していくというACTの考え方は、重度精神障害者の地域生活支援において大切なものだ。

 では、重度精神障害のある人たちの地域生活を支援するチームでの訪問看護の現場で、作業療法士に求められる役割とはなんだろうか。ACT-Jで働く作業療法士にとっては「作業療法士の視点で見ると、訪問の現場は、情報の宝庫」なのだという。病院ではなく、実際の生活の場であれば、それぞれの工夫でどのようにでも支援できる可能性がある。その可能性に気づくことができる視点と技術をもっているのが、作業療法士なのだ。

 また、ACTの考え方では、「生活の場」は自宅のなかだけでなく、地域全体と捉える。買い物などの外出や、地域コミュニティへの参画も、その人の生活の場と考える。訪問を通じて、利用者が自宅から地域へと進出するためのきっかけづくりやそのための支援を、自然なかたちで行うことも、作業療法士の得意なことだ。例えば、「お寿司を食べたい」という利用者とともに街のお寿司屋さんに外出することを繰り返しながら、その外出の機会を活用して、スーパーで食料を買ったり、衣料品店で洋服を買うように促し、自炊や自立生活へとつなげることもある。一人の人を「生物(身体機能など)」、「精神」、「歴史(人生の歩み)」など、多角的な視点で見ることのできる作業療法士だからこそ、こうした訪問の現場で起こる様々な出来事を、その人らしい生活を送るための支援のきっかけとして活用できるのだという。

 日本の精神医療が変わろうとしている今、ACT-Jのような現場の取り組みへの期待は、これから大きくなっていくだろう。その中で作業療法士が果たす役割は大きい。

打ち合わせで情報共有する訪問看護ステーションACT-Jの作業療法士。左から、足立さん、永井さん、五ノ坪さん、真嶋さん

打ち合わせで情報共有する訪問看護ステーションACT-Jの作業療法士。左から、足立さん、永井さん、五ノ坪さん、真嶋さん

■施設情報
認定NPO法人リカバリーサポートセンターACTIPS
訪問看護ステーションACT-J
〒272-0824
千葉県市川市菅野5-11-16
電話:047-712-5625