タイヨーカフェ 目黒美和さん
「ケアラーズカフェ」という取り組みがある。誰かを支援している人=ケアラーを対象としたカフェだ。福島県でケアラーズカフェに取り組む作業療法士に、カフェの活動目的や、作業療法士がカフェ運営をする意義について聞いた。
福島県・会津美里町にある「タイヨーカフェ」。もともとは寿司屋さんだった店舗を改装して作られた、古民家風のおしゃれなカフェだ。普段は一般喫茶として軽食やスイーツを提供し、月に数回、自然食を中心としたオーガニックカフェとして営業している。昨年(2019年)オープン以来、徐々に地元の人に愛される場所に育ってきたタイヨーカフェが、カフェのほかに大切にしている活動がある。それが「ケアラーズカフェ」だ。
介護者など、誰かを支援している人を「ケアラー」と呼ぶ。「人を支えるケアラーは、自分のことをないがしろにしていることが、実は多いんです」と話すのは、タイヨーカフェ代表の目黒美和さんだ。目黒さんは、普段は作業療法士として病院に勤務する傍ら、タイヨーカフェを運営している。「ケアラーズカフェ」は、病院勤務のなかで数多く目にしてきた「何よりも介護を優先するケアラー」のためになにかできないかという、目黒さんの問題意識から始めた活動だ。
「ケアラーズカフェ」の取り組みは全国に広がっており、さまざまな団体が多様な活動を行っているが、タイヨーカフェでは主に医療・福祉職や介護職など「支援職=支援のプロ」を対象にしていることも特色だ。
活動内容はシンプル。みんなで集まり、ともに簡単な作業をして、食事をする。お互いの悩みを発表し合ったり、テーマに基づいてディスカッションなどをすることはない。
この日は作業療法士、理学療法士、地域包括支援センターのケアマネジャーなど10人ほどが、タイヨーカフェのケアラーズカフェに参加した。タイヨーカフェで使っている有機玄米の「ヤケ米(黒い部分があったり、逆に白くなってしまった不良米)」をより分けるというシンプルな単調作業を、みんなで黙々とやる。およそ1時間。初めのうちはシーンと無言で作業をしているが、慣れてくると次第に会話も飛び出してくる。会話はたわいもないものから、自分の職場についてなど様々だ。実はこの「作業を介しての対話」を狙いとしているという。「家庭や職場とは違う空間で、同じ職種に従事する人たちが時間をともにすることが、まずは大事です。悩みを語ったり相談になることもありますが、それが一番の目的ではないんです」と目黒さん。
目黒さんは、ケアラーズカフェ運営に自身の作業療法士としての経験や職能が活きてといると言う。「作業療法士は黒子の役目を果たすんです。なんにもしていないように見えて、実はいろいろ考えてやってるんですよ(笑)」。たとえばこの日は、一つの座卓を囲んで作業をする予定だったが、目黒さんは座布団を均等に敷くのではなく、あえて座布団を敷かないスペースを作っていた。「作業中、私が入って声がけするスペースがあった方がいいと思って」と目黒さん。こうした「環境調整」を行い、よりよいコミュニケーションができる場をつくることができるのも、目黒さんの作業療法士としての経験によるものだ。
1時間ほどで作業を終えると、ちょうどお昼の時間。ご飯が炊きあがり、自然食の定食をみんなで食べる。「ねぎ味噌」や「車麩のかば焼き」など、地元産の農作物を使った料理が並ぶ。参加者の一人は「いつもは『誰かのために』を考えることが多いですし、また私は母親でもあるので、本当に自分のために何かをすることがないんです。ここにくると自分が楽しめるんです。職場でも家庭でもない、自分の居場所があるような気がしてほっとします」と話す。
よりよい支援のためには、まず支援する人自身がよい状態でなければならない。その意味でケアラーズカフェの取り組みは、支援そのものの質を高めることにもなる。そのための場づくり、環境づくりに作業療法士の知識や経験が活かされている。
ケアラーズカフェの参加者と目黒美和さん(右)
■施設情報
タイヨーカフェ
〒969-6203 福島県 大沼郡 会津美里町前川原3456番2
電話:080-1822-7624