子どもの「困ってる」も、先生の「困ってる」も、作業療法の視点で支援する
澤田麻里さん(認定こども園 清教学園幼稚園)
作業療法士の視点は、医療や福祉の現場だけに役立つものではない。幼稚園園長として働く澤田麻里さんは、作業療法士の資格を持ち、また特別支援学校の教員の経歴もある。作業療法士の視点を活かした「育ちの場」づくりについて取材した。
大阪市内から電車で40分ほど。「奥河内」と呼ばれる、自然豊かな地域に囲まれた閑静な住宅街に、清教学園幼稚園はある。澤田麻里さんが、清教学園幼稚園に園長として赴任してきたのは、今年(2017年)4月のこと。幼稚園の園長もはじめてなら、幼稚園に勤めるのもはじめて。作業療法士の資格を取得したあと、長年養護学校(特別支援学校)に勤務してきた澤田さんは、作業療法士の視点を活かして、清教学園幼稚園の子どもたちや、先生たちを支援している。
幼稚園に入園してくる子どもたちの中には、毎年必ず何人か、自閉的傾向や発達障害の傾向がある子がいるという。「うちは特別な体制があるわけではないんですが、キリスト教保育の幼稚園だからなのか、『清教学園幼稚園なら、うちの子を受け入れてくれるのでは』と、他の幼稚園で断られた子どもさんも来られるんです」。こうした子どもたちにどう対応するのか。澤田さんは、子どもたち一人ひとりへの個別の対応もさることながら、作業療法士の視点を活かして保育の現場全体を最適化することを心がけているのだという。「たとえば、保育中に落ち着きがなくなり、立って歩きまわったり、おしゃべりが止まらなかったり、みんなでやっている活動ができなくなる。それは、障害がある子でもない子でも起こることなんです」。そうであれば、教室の中にサークルなどで違う空間を設け、そこで活動を続けてもらう。「周りから少し離れ、情報をある程度遮断してあげることで、子どもは落ち着きを取り戻すのです」。この空間は、障害のある子だけのものではなく、落ち着きのなくなった子どもには、みんな使うことができる。こうした工夫や視覚支援の提供等が「幼稚園になじめない、『困り感』を抱えた子どもたちみんなにとって役立つものになれば、と考えています」。
「困り感」を抱えているのは、子どもたちだけではない。先生たちの悩みにも、作業療法の視点が役立つことがあるという。「先生たちは、自閉的傾向、発達障害傾向のある子どもたちに対する接し方を、必ずしもよく知っているわけではありません」。たとえば、お絵かきの時間に、じっと座っていられない子どもがいる。こんな時、先生たちはどうしても「集中力がない」、「やる気がない」と「気持ち」の問題ととらえ、指導してしまいがちだ。でも「もしかしたら、座る位置や姿勢を変えることで、改善するかもしれない」。座位を調整すれば、長い時間椅子に座ることができ、結果として集中力を持って作業することができるようになる。こうした、作業療法の視点からのちょっとしたアドバイスが、現場で働く先生たちの「困り感」を解消する。清教学園幼稚園総主任・元木康介さんは「私たち現場で働く教員に寄り添ってくれて、決して上から目線ではないアドバイスをくれる。またそのアドバイスが、本当に効果的なんです。療育の現場で重ねてきた経験を伝えてくれるので、勉強になります」と話してくれた。
澤田さんの仕事に対する姿勢は「現場主義」だ。園長と言っても、園長室でじっとしていることはない。「だいたい、園長室がないんです(笑)」。教室を回り、子どもたちに声をかけ、先生と話し合いながら、保育現場の「困り感」を解消し、子どもも、先生も、のびのびと関わり合うことのできる環境をつくる。作業療法士の視点が、幼稚園の現場に活かされている。
■施設情報
学校法人清教学園 認定こども園 清教学園幼稚園
〒586-0016 大阪府河内長野市西代町9-11
電話:0721-53-3917