教育の現場で育んだ思いを、作業療法で伝える
島田療育センター・北川伸尚さん
島田療育センターは、東京都多摩市に1961(昭和36年)に開設された、日本で最初の重症心身障害児施設だ。重度心身障害児・障害者の入所病棟のほか、発達障害などの外来診療などを行っている。島田療育センターに勤務している作業療法士・北川伸尚さんは、社会人を経験した後、一念発起し、作業療法士を目指すことにした。そのきっかけとは、どんなものだったのだろうか。
もともと高校生の時は、心理カウンセラーになる勉強をしたかったんです。クラスや部活動で友人たちの話を聞く機会が多く、人の話を聞くことに興味を持ったんです。でも、志望した大学の心理学専攻は倍率が高く、同じ学部の障害児教育専攻に志望を切り替えて合格することができました。
入学するまではまったく目を向けていなかった障害児教育の分野でしたが、特別支援学校での実習や、自閉症のある子どもたちとのキャンプ、また地域の自閉症児の親の会との交流など、大学内外での様々な活動で実際に学んでみると、奥が深く、次第に興味が湧いてきました。
卒業後、自閉症児を多く受け入れている小学校や教育センターで教員として働くことになりました。教育センターは地域の障害のある子どもたちを対象に療育を行っていて、いつも決まった子どもを教えるのではなく、また長い時間関わることができません。ですから、子どもたちの家庭での様子を想像しながら、普段の生活の中に取り入れることができることを考え、子どもたちにも親御さんにも伝えていくことが必要だと痛感しました。
作業療法士の存在を知ったのは、この教育センターで働いている時のことです。センター主催で行われるセミナーの講師を作業療法士がつとめてくださることがあり、その中で「感覚統合」などの療育の手法について知りました。私が教育の現場で課題に感じていたことを、作業療法士なら解決する方法を持っているのではないか、と感じました。そのため、働きながら夜間で専門学校に通い、作業療法士を目指すことにしました。
作業療法について実際に学んでみてはじめて、理系や医学系の科目の覚えることの多さにちょっとびっくりしました(笑)。もともとは文系の人間ですから、勉強は大変でしたが、学ぶうちに、まだ身体が発達しきっていない子どもたちには、解剖学的な知見や人間発達の知識が非常に重要であることがわかってきました。また作業療法の実習で、高齢者や精神疾患の患者とも接点があり、これもとてもいい経験になりました。
資格取得後は、医療の現場で働きたいと、この島田療育センターに就職しました。今は、センターの入所者および外来での作業療法を担当しています。教育センターでは教員として、ここでは作業療法士として、異なる立場で障害のある方々に携わることになったのですが、教員として子どもたちと接していた時よりも、細かく子どもたちの様子を観察し、分析する視点をもつことができています。教員の時には「子どもたちはこんなことに困っている」と現象として把握していたことを、作業療法士の視点と知識、技術を身につけることで「なぜこうなるのか、どうやったらその困りごとを乗り越えられるのか」を考えることができるようになってきていると思います。また、入所利用者の方々に対しても、毎日の生活を大切にし、病棟職員と細かに情報交換をしながら日々の生活につながるような関わりに努めていきたいです。
■施設情報
社会福祉法人日本心身障害児協会 島田療育センター
〒206-0036 東京都多摩市 中沢1丁目31-1
電話:042-374-2071(代表)