作業療法士として「人にかかわる」楽しさと難しさと、やりがい
同和会千葉病院・梶茉奈美さん
千葉県船橋市にある医療法人同和会千葉病院。精神科の専門病院であり、千葉県精神科救急医療システムの基幹病院として、1955年(昭和30年)設立以来、千葉県の精神科医療の中で重要な役割を担ってきた。ここで2016年から作業療法士として働く梶茉奈美さんを取材した。
同和会千葉病院で作業療法士として働く梶茉奈美さんは、弟が軽度の脳性麻痺だったということもあり、幼い頃から作業療法士や理学療法士など、リハビリテーション専門職との接点があったという。「弟のつきそいで病院に行ったときに、一緒に遊んでもらったりしていました。遊びというか、今にして思えばリハビリテーションの一環だったのかもしれませんけれど(笑)」。そんな経験もあってか、早い時期から、医療・福祉系の仕事に携わりたいと思っていたという。そんな中、高校生の時に訪れた大学見学で、見学先の教授による作業療法士の説明に感銘を受けたという。「事例として、『立ち上がり』の訓練の話をしてくださったのですが、ただ立ち上がることができるようになればいい、というのではなく、たとえばトイレに行けるようになるために立ち上がりを訓練するのであれば、トイレの高さなど条件を考慮した上で訓練をする。何がその人の生活にとって必要なことかを考えていること、マニュアルではなく、人それぞれに、その人にとって一番いいやり方を考えることが、やりがいがあるなと思いました」。
大学に入学し作業療法士をめざすことに決めたが、大学では、勉強も実習もハードだったという。「何度やめようと思ったことか(笑)」と振り返る。「高校では理系が得意だったのですが、そんなことも関係なく、学ぶことすべてが新しいことでした。同級生みんなで一緒に悩みながら、なんとか身につけていきました」。
梶さんは、作業療法の中でも、精神領域へのあこがれが強かったという。「もともと私は小さい頃から、人の話を聞きながら『この人は、なにを考えているんだろう?』と、人の心の動きを考えることが好きでした。作業療法士の関わり方は、そうした私の思いに近いものなのではないかと感じていました」。実習の現場を経験して、精神領域への思いは、より強くなったという。「実習先で、患者さんと関わっていくと、その人の人となりや個性、性格がどんどん見えてくるのがわかりました。そうした人たちが苦しんでいたり、偏見にさらされたりしている。なんとかしたい、と思うようになりました」。時には壁にぶつかることもあった。「見学実習のときに、実習先の患者さんに大声をかけられたんです。初対面の私に対して、とても怒っているようでした。ショックというよりも、どういう対応をすればいいのかわからなくて、戸惑ってしまいました」。それでも、4年間の授業や実習を通じて、精神領域への思いを育んできた梶さんは、卒業時に精神科の専門病院である千葉病院を志望した。
千葉病院では「スーパー救急」と言われる部署で、急性期の精神病患者への作業療法を担当する。「入院してから退院までは、約3か月。急性期医療的な対応が終わったあとの1~2か月間、作業療法を通じてその人が再び日常生活を送れるように支援しています」。重篤な症状が出ていて、誰かと会話することもままならない状態で入院してくる人も多い。「退院までのわずかな時間で、患者さんは大きく変わります。回復のプロセスに携わることができるのは嬉しいですし、変化を見届ける達成感も大きいです」。しかしそれだけに、難しさもあるという。「スーパー救急を担当するようになって、3か月という時間が、とても短いと感じるようになりました」。日々刻々と変わる状態にあわせて、こちらの対応も柔軟に変えていかなくてはならない。積極的に介入するべきか、あえて介入せず、見守るべきか。その場その場での判断が求められる。「『行き過ぎた(介入しすぎた)かな』と反省することもしばしばあります」と梶さん。「将来的には、発達領域にも興味があります」と言うが「でも今は、スーパー救急で学ばなくてはいけないことが、まだまだたくさんありますから」。千葉病院では、スーパー救急担当の作業療法士は梶さんを含めて2人。同じ作業療法士、あるいは他職種の先輩たちと相談しながらの、試行錯誤の日々が続く。
■施設情報
医療法人同和会千葉病院
〒274-0822 千葉県船橋市飯山満町2-508
電話:047-466-2176(代表)